ブルース・スプリングスティーン

ブルース・スプリングスティーン『THE GHOST OF TOM JOAD』私的全曲レビュー

今回の記事はブルース・スプリングスティーンが1995年に発表したアルバム「THE GHOST OF TOM JOAD」についてです。オリジナルアルバムとしては1992年の「HUMAN TOUCH」「LUCKY TOWN」以来の3年半ぶりのアルバムになります。


bruce springsteen – the ghost of tom joad (1 CD)

THE GHOST OF TOM JOAD  全体的な感想

『THE GHOST OF TOM JOAD』1995年発表

本作は3年半ぶりのアルバムというだけでなく、1982年に発表した「NEBRASKA」以来、13年ぶりのアコースティックアルバムという意味でも注目を集めました。

全曲ボス氏の弾き語りをベースとしていますが完全な弾き語り曲は少なく、その多くは最小限の伴奏や効果音的なものが付加されています。

もちろんボス氏お得意のハーモニカも登場しますが、意外と少なめだったなぁという印象です。

アコギとハーモニカだらけという先入観しか記憶に残っていなかったので今回確認出来たのは良かったです。

歌詞の世界は、一言で言えば現代アメリカの憂鬱で、特に不法移民問題などの多民族国家としてのアメリカ、ベトナム戦争後の人種や格差に着目している様に感じました。

また、本記事を書くにあたって25年ぶりに通勤途中の車の中で連日ガッツリ聴いていましたが、最初はどれもこれも同じに聴こえて各曲の特徴を区別して捉えるのにはかなり苦労しましたね。

何しろ私は英語が出来ないので、本作をBGM的に聴くというのは中々しんどいものがあります。今更ながら言語の壁の高さというものを痛感しました。

ただ1.や4.はその後、ロックバージョンとして再録されたりライブで披露されたりと、非常にポテンシャルの高い楽曲が収められていますので、改めてその原曲に触れらたのはとても良かったですね。

あと、「NEBRASKA」はボス氏の自宅でレコーディングされたデモテープをそのままレコード化した感じでしたが、本作はレコーディングスタジオにて録音されているので、耳ざわり的に聴きやすくなっているのは大変ありがたかったですね。

THE GHOST OF TOM JOAD  各曲感想

1. The Ghost of Tom Joad

本作のタイトルチューン。基本弾き語りで伴奏は効果音程度に抑えられています。他のアーチストが本曲をカバーすることも珍しくない名曲です。

それが縁?でボス氏のアルバム「HIGH HOPES」ではトム・モレロ氏と共に本曲をロックver.としてセルフカバーしています。

セルフカバーver.を聴けば分かるとは思いますが、本曲はかなりメロディアスな曲だと思います。

また、ボス氏の歴代の楽曲の中でもトップクラスの格好良さなので、ご存じない方には一聴されることをおすすめいたします。

原曲である本曲に関しては歌い方がとても静かで淡々としていますので、もしかしたらメロディーの良さが伝わりにくいかも知れません。

今回の記事を書くにあたって久々に聴いたら、アレ?違うメロディ?とほんの一瞬だけですが戸惑ってしまいました。

歌詞は1939年に発表されたジョン・スタインベックの傑作小説「怒りの葡萄」にインスパイアされたものだそうです。

本曲のタイトルや歌詞中に出てくる「トム・ジョード」とはその小説の主人公の一人だそうです。私はその原作小説を読んでいないので、本曲の歌詞を読んでもイマイチピンと来ませんでしたね。

要は、力を持つ者持たざる者、富める者に富まざる者、人種や階級社会への抗議、自由への渇望などがテーマの様です。

歌詞に出てくる主人公は、現代においてもそういった状況にあることを悲観している様です。

そして「怒りの葡萄」の主人公、英雄であるトム・ジョードの幽霊を待っている、探している、そして、トム・ジョードは隣に座ってくれていると前向きに結んでいます。

2. Straight Time

とてもゆったりとした曲です。伴奏は最小限といったところで地味ですが、まだ2曲目ということもあってか、まずまずメロディは分かりやすいですね。

ゆったりとのんびりとした曲なのでそれを優しげと感じるか、暗いと感じるかはその人次第ですが、私の場合は前者ですね。

歌詞は曲調とは異なりシリアスです。主人公は犯罪を犯し服役し出所します。やがで妻子を得ますがその生活は苦しく、ほとほとうんざりしている様です。

また、終盤に「猟銃の銃身に弓鋸をあてる」とありますが、これは自殺を考えていたが、猟銃をぶった切ることで生きていく決意を固めたのかな?と思いました。

しかし最後の最後に「外国に逃げることを考える」とあります。その「逃げる」という表現が気になります。

これは前向きな意味なのでしょうか?外国でやり直す的な。うーん、ちょっと難しいですね。

3. Highway29

良く言えばしっとりとした、悪く言えば暗めの曲です。ギターが他の伴奏同様にかなり控えめなので弾き語りという感じではないですね。

主たる楽器が見当たらないのでアカペラっぽさすら感じました。かといってメロディーでもっている曲なのかというと、それほどメロディアスな印象は受けませんでしたね。

歌詞はシリアスというかクズの話です。知り合った女性と深い仲になるも、彼は強盗を実行してしまいます。

真っ当な彼女を自分の中にある悪しき世界に巻き込んでしまった男が、彼女と逃避行するというものです。ま、クズ中のクズですね。

4. Youngstown

本作で一番メロディアスな弾き語りの曲です。ライブではロックver.というかEストリートバンドver.がお馴染みとなっていて、とても人気の高い曲で私も大のお気に入りです。

ライブではニルス・ロフグレン氏の超絶ギターソロがありますが、原曲ではそれがない分、こじんまりというか意外と短めな曲だったことに気付かされました。

ちなみにそのライブver.はライブ作品「London Calling: Live in Hyde Park」やボス氏公式HPで観ることが出来ます。そのボス氏公式HPのこの曲はこちら

歌詞もボス氏の作品の中でもトップクラスに好きです。

その主人公は溶接工・製鉄工として大砲などの製造に携わることが、自身の生活を支えとなっています。

しかしその製品によって戦争で多くの人が命を落としたという事実、軍需産業のジレンマに苦脳・葛藤しているというものです。

「かつて俺はあんたのことを金持ちにしてやった。俺の名前を忘れてしまうほどの金持ちに」

私的に本曲はもう一つの「Born in the USA」といった印象で、名曲中の名曲だと思います。

5. Sinaloa Cowboys

ゆったりとした穏やかな曲です。基本弾き語り曲で本曲も伴奏は最小限に抑えられています。こちらの曲には優しげなオーラを感じますのでそんなに苦手じゃないですね。

しかし歌詞はシリアスです。十代の兄弟がメキシコからアメリカへやって来るも、あり着いた仕事は報酬の良い覚せい剤の製造。

彼らは稼いだお金は無駄遣いせず貯めていた様ですが、製造時の爆発事故で弟を失くしてしまいます。

メキシコの家を出る時に父親はこう忠告していました「北の国(米国)では、手に入る全てのものに対し代償を支払わなければならない」と。

6. The Line

前曲と似たテイストの曲です。前曲同様に優しげですが、こちらの方が全体的に穏やかというより大らかな印象を受けました。

ですので聴いていて、しんどいということはそんなにはないと思います。まあ、この手の曲自体がNGなのよ、と言うのであればその限りではありませんが。

歌詞はこの曲も曲調とは異なりアンハッピーです。一言で言えば移民問題絡みの恋物語です。彼は妻を亡くし、軍を除隊して現在は国境警備隊で不法入国者を取り締まっています。

そして亡き妻の瞳に似た入国を希望している女性に恋心を抱き、違法入国の手助けをしてしまいます。

しかもそれを同僚に見つけられてしまうのですが、その同僚は職務違反である彼を見逃してくれました。その同僚は彼に対する友情はもとより、命がけの違法入国者に対する同情心も持っていました。

その女性に恋心を抱いていた彼は、違法入国の手助けをした自分に対して好意を持ってくれていると思っていた様ですが、彼の同僚に見つかった時、彼女はどさくさに紛れて、そそくさと川を渡って逃げて行ったという…

それでも諦めきれない彼は仕事を辞めて、移住者の住む町を歩き回りあの女性を探し歩いているのだとか。

とまあ、感想としては、なんだかなぁ…という感じです。

7. Balboa Park

結構ダークな曲です。いわゆる私の苦手なやーつです。メロディーがイマイチ明確でないこともさることながら、キーを低めに設定しているのか?ボス氏のダミ声感もいささか強めに感じました。

歌詞は、これまたメキシコからの不法入国者の話です。主人公は麻薬の運び屋で命からがら入国し、金を得ます。

多少は故郷に仕送りはするものの、その他の多くの金は高価なスニーカーやジーンズに消え、高速道路の下で毛布を敷いて暮らしています。

やがてみんな麻薬関係の仕事に深入りすることになり、そして最終的には身を滅ぼしてしまうという、厳しい現実をスケッチした様な歌詞です。

本作は1995年の作品ですが、25年経った現在においてもそういった状況は改善されておらず、むしろ悪化している様です。国境の壁の建設が必要なほどに。

8. Dry Lightning

のんびりとした穏やかな曲です。この曲も基本弾き語りで伴奏は最小限です。

雰囲気的にはボス氏のファンの方ならお馴染みの「Jersey Girl」に似たテイストを感じましたね。中々感じの良い曲だと思います。

歌詞はちょっと観念的でよく分からないですね。まあ、どんなに苦しく、辛い人生であっても愛する君だけは失いたくないということなのだとは思いますが。

9. The New Timer

完全弾き語り曲です。ハーモニカも効果音的なものもないですが、メロディーがまずまず分かりやすいのでこの手の曲としては聴きやすい方だと思います。

歌詞はなんとも陰気です。彼は家族を捨て仕事を求めて旅に出るも上手くいっていなく、放浪を続けている様です。

そして彼は自問します。息子は自分のことを気にかけてくれているだろうかと。

最後には「俺の心を満たすものはライフルと自分が殺したい男の名前だ」と。きっとその男とは自分のことなのでしょうね。

そもそも仕事を探すために、なんで家族を捨てる必要があったのか疑問です。いわゆる出稼ぎ労働者の話とは違う様ですし…

10. Across the Border

特にメロディアスという訳ではありませんが控え目ながらも伴奏付きで、間奏ではストリングスが登場します。

以降、ボス氏のハーモニカにコーラスやストリングスなどが他の伴奏に絡まってきたりと、本作で唯一アンサンブルを感じさせる比較的聴きやすい曲だと思います。

歌詞も本作においては異色と言いたくなるほどに前向きなのでほっとします。

ただ、内容的にはラブソングなのですが、全ての希望は「国境の向こう側で」「国境を越えて行こう」となっています。

それは言い方を変えればそれが叶うまでは全てお預けともとれるので、本当に国境を無事に越えられるのか心配です。

本曲は希望の歌なのですが、本作の歌詞全般に漂う雰囲気を考えると、何か不吉な予感が湧いてきてしまいます。

11. Galveston Bay

9.同様、完全弾き語り曲です。9.に比べるとメロディーは分かりにくいですが、暗さはそんなに感じませんでした。暗いというより静か・穏やかな印象です。

とても物語性が高い歌詞です。ベトナム戦争を闘ったベトナム人のリーとアメリカ人のビリー。

終戦後ベトナム人のリーは、ビリーが住む港町に越して来ました。共に漁業を営んでおり、そしてある事件が起きます。

戦争の後遺症とも言える現実、その憎しみと赦しをボス氏が丁寧に描写しています。

12. My Best Was Never Good Enough

ほぼ完全弾き語り曲です。ホワーン系のシンセが効果音的に使われているだけです。ちょうど2分という小品ですがそんなに可愛らしいという感じはしませんね。

ただ曲調的には、ほどほどに明るく短めの曲でもあるので、聴いていてしんどいということはないかと思います。

歌詞はユニークです。格言・ことわざ的なものがズラリと並んでいます。

自分が惚れた女はとても頭が良くて降参だという趣旨で書かれた感じですが、小品ということもあり、ある種ジョーク的な意味合いで作詞したのかな?という気もします。

以上、ブルース・スプリングスティーン『THE GHOST OF TOM JOAD』私的全曲レビューでした。ありがとうございました。

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