ブルース・スプリングスティーン

ブルース・スプリングスティーン『HIGH HOPES』私的全曲レビュー

今回の記事はブルース・スプリングスティーンが2014年に発表したアルバム「HIGH HOPES」についてです。本作は2012年の「WRECKING BALL」の2年後と早期に発表されました。

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HIGH HOPES  全体的な感想

HIGH HOPES』2014年発表

前作の「WRECKING BALL」からわずか2年余りのインターバルでリリースされたアルバムです。

ボス氏の場合、私のイメージでは元気の良いアルバムをリリースしたら、次作は控え目な感じのアルバムをリリースするという勝手なイメージがあります。

だとすると本作の次はロックアルバムになるはずなのですが、実際は「WESTERN STARS」ということで予想は見事にハズレました。

ま、それはそれとして本作は、前作の「WRECKING BALL」 にも参加していたギタリストのトム・モレロ氏が多数の曲に参加しています。

そもそもトム・モレロ氏のことを知らなかったこともあって、おそらく本作は私好みのアルバムではないだろうなとあまり期待していなかったことを覚えています。

前作から2年余りでのリリース、カバー曲が3曲、ライブ既発表曲、過去作のレコーディング時のアウトテイク?という構成から見て、控え目というよりか、どこか大人の事情的な匂いを感じました。

実際リリース当時はトム氏の本作への貢献の大きさを感じましたが、アルバム全体としてはあまり満足度が高くなかった覚えがあります。

個別には、4.「Just Like Fire Would」、7.「Frankie Fell in Love」、10.「The Ghost of Tom Joad」あたりは私好みで気に入りましたが。

特に「The Ghost of Tom Joad」のロックver.は最高です。ボス氏の長いキャリアにおける作品群の中でも10本の指に入れたくなるほど大好きな作品です。

本作はいわゆる噛めば噛むほど味が出るタイプのアルバムなんだろうとは思いますが、リリース当時はそもそも噛む気があまり起きなかった記憶があります。

しかし今回私的レビューを書くにあたって、久々に全曲を通勤の車の中で連日聴いていましたが、なるほど聴けば聴くほど、このアルバムもなかなか良いです。この記事を書き終わっても当面は聴き続けたくなりましたね。

HIGH HOPES  各曲感想

1. High Hopes

ティム・スコットさんというお方のロカビリーのカバーだそうです。エッジの効いたギターから始まり、小気良いドラムにホーンや女性コーラスがセクシーに絡まります。

得てしてロカビリーを現代版にすると、美女にカクテルにベントレーみたいなラスベガス感満載のゴージャスな感じになりがちですが、ボス氏のそれは、ほどほどに抑えているので厚化粧なケバい感じはしませんね。

歌詞は、何事も金がないと得られない時代だが希望は捨てていない、むしろ大きな希望を持っているといった内容です。

2. Harry’s Place

ボス氏のボーカル然り、サイケで怪しげな雰囲気が漂っている渋いロックです。1曲目で大いなる希望を歌ったかと思ったら、2曲目でダークな曲が登場したのには少々面食らいました。

歌詞に登場する麻薬売買の元締めのハリーはあくまでも一つの象徴の様です。現代は裏社会と表社会の区別が付きにくい、とてもやっかいな状況にあることを歌っているのかなと思いました。

3. American Skin (41 Shots)

黒人の青年が白人警官達と対峙した時にポケットに手を入れたため、41発もの銃弾を浴びて死亡したという実話に基づいた曲。

2000年あたりにこの事件自体やボス氏の本作も話題になったことを覚えています。しかも白人警官達はまさかの無罪という結末。

米国では警官の前でポケットに手を入れるのはご法度だそうです。例えば、警官が自身の身を守るためとして4発撃ったのなら、あり得るかな?という気もします。

しかし、いくらなんでも41発って…人種差別的な憎しみがあったと思われても仕方のない弾数だと思います。

曲調はスローソングでボス氏のこの手のタイプの曲でお馴染みの「ホァーン」って感じのシンセが鳴っています。

中盤以降、メチャクチャ格好いいギターが入って来るのですが、そこをあまり強調して語ってしまうと不謹慎な感じになりそうな…

4. Just Like Fire Would

オーストラリアのザ・セインツというパンクバンドのカバーだそうです。原曲を聴いたことはありませんが、カバー曲だと知って驚きましたね。ボス氏のオリジナル曲と言われても何の違和感も感じません。

1980年前後や2009年の「WORKING ON A DREAM」のボス氏の作風に通じる良質なポップソングといった趣きです。

歌詞は、労働者の歌の様ですが歌詞カードを読んでも何だかよく分かりませんでした。ま、この曲はとりあえず歌詞は気にしなくても良いと思います。はい。

5. Down in the Hole

穴の中で働いている炭坑夫の歌の様です。正直、シリアスというより暗いイメージで歌詞の内容的にもちょっと私には難しいかな。

ただ、曲自体は作業道具を叩く様な効果音、ひんやりとした女性コーラスにバンジョーほか、とても凝ったつくりをしているなと感じました。

雰囲気的には「I’m On Fire」に近いかも知れません。温度感は真逆ですが。

6. Heaven’s Wall

一言で言えばゴスペルとロックンロールの融合といったところでしょうか? 黒人の女性コーラスが印象的なゴスペル風味のメロディアスなロックンロールです。

歌詞における宗教や信仰については知識がないので何とも語り様がありません。

とにかく聴いたままポジティブな気持ちになれる曲だとは思います。あとは好みに合うか合わないかですね。

7. Frankie Fell in Love

4.と似たテイストのオリジナル曲です。こちらの方がご陽気感が増しています。コミカルさもある曲なので誰もがリラックスして楽しめると思います。

歌詞は、仲良しの女友達に彼氏が出来たので、もう彼女の手料理は食べられない、もうこれからオレ達はテイクアウトしか食べられない、これはえらいこっちゃ!みたいなコメディータッチの内容です。

尚、この曲は「HIGH HOPES」発表後、同年にリリースされた『American Beauty』という4曲入りの12インチ・アナログEPに「American Beauty」というゴリゴリのロックとして収録されました。

リリースの時系列からいえば、この曲が「American Beauty」に生まれ変わった感じがします。

しかし実際には、元々あった「American Beauty」が「Frankie Fell in Love」に生まれ変わって「HIGH HOPES」に収録されたという話をどこかで聞いたことがあります。

ま、いずれにしても私的には、「Frankie Fell in Love」と「American Beauty」、どっちが好きかと訊かれれば断然「American Beauty」です。

曲もさることながらMVが格好良いのなんのって。ボス氏の短髪・サングラスに皮ジャンと超絶な格好良さです。

American Beauty:オフィシャルビデオはこちら

8. This is Your Sword

6.がゴスペル風味のロックンロールだとしたら、この曲はアイルランド風味のメロディアスなフォークロックといったところでしょうか?

バグパイプ?の音色が印象的で陽気でダンサブルです。むかーし観た映画「タイタニック」でレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットのダンスシーンをふと思い出しました。

歌詞は、「おまえの剣、おまえの盾」、「愛を与えなさい」と神話的な内容です。神の御言葉は尊いのですが、私には縁遠いので6.同様に語りづらい歌詞ではあります。

9. Hunter of Invisible Game

MVというかショートフィルムにもなったスローソングです。そのショートフィルムにはボス氏自ら出演して演技をし、共同監督までもしていることから、この曲には強い思い入れがあるのだろうと想像しています。

ライナーノーツにはワルツ調と書かれていました。たしかにサウンド的にストリングスが効果的に使われているのでフォークソング然とはしていません。

そういった意味ではこの曲は次作の「WESTERN STARS」の何らかのヒントになったのかな?という気がしないでもないです。

歌詞は、悲観的な内容ではないとは思いますが、宗教的・神話的・文学的な印象で正直イマイチピンと来ませんでしたね。

そのショートフィルムはこちら

10. The Ghost of Tom Joad

1995年にリリースした「ネブラスカ」チック?なアルバム「The Ghost of Tom Joad」のタイトル曲をハードロックver.として再録したものです。

もうね、鳥肌もんの格好良さです。本アルバムのハイライトと言って良いでしょう。ゲストのトム・モレロ氏とボス氏のギターバトルは必聴です。

あと、初聴の時になんか声が変だな?と思ったらトム氏が一部ボーカルも担当していました。

また、冒頭にも書きましたがこの曲は私のフェイバリット曲で「American Beauty」と共にこの曲はいまだに飽きません。

歌詞については今更説明不要だとは思いますが、ジョン・スタインベックの小説「怒りの葡萄」の主人公トム・ジョードをモチーフにして、現代アメリカを斬っています。

11. The Wall

後半の穏やかなトランペットが印象的なフォークソング。フォークソングはフォークソングでもプロテストフォークですね。歌詞の内容も相まって厳かな鎮魂歌・反戦歌の様相を呈しています。

「WALL」とはベトナム戦争戦没者慰霊碑の様です。ベトナム戦争が終結して40年あまりが経つも、未だ心の傷が癒えない男が慰霊碑の前で胸中を語る歌です。

彼は戦没者への哀悼を捧げるとともに、自分は生き残ったものの「生」への喜びは得られず、まるで「この世」という刑務所で過ごしているかの様に生きていることを彼らに告白しています。

12. Dream Baby Dream

スーサイドとかいうデュオのカバーだそうです。穏やかで厳かな讃美歌?の様な曲です。

歌い出しからゆったりと進行して行くのですが、初聴の時は、途中でガツン!と来るのかな?と思っていたらそのままエンディングまで進行して行きます。

似たようなフレーズ、同じメロディー、リズム、と起伏がないので聴いていると眠たくなります。

しかしそこがある意味狙いで、この曲は前曲までのある種の怒りを沈めるかの様な役割を担っているのかなと思いました。

そう言った意味ではラストの曲としてはふさわしいと思いますね。この曲が中盤に配置されていたら、ちょっとしんどかったかも知れません。

おわりに

私は「HIGH HOPES」そのものよりも、初回生産限定盤のおまけの「BORN IN THE USA」完全再現ライブのDVDに興味津々で、しかも日本語字幕付きのライブDVDでしたのでおまけには大満足でした。

注)リリースから6年も経っているのに現在も初回生産限定盤のライブDVD付きの「HIGH HOPES」の新品が購入可能な様です。

しかし購入されるのであれば「日本語字幕付き」というズバリの表記が見当たらない?ので念のため要確認ですね。

ま、英語が分かるとか訳詞を頭に刷り込んでいれば必ずしも字幕は必要ないのかも知れませんが。

私的には日本語字幕付きはありがたいですね。まるで映画を見ている様で歌詞もすんなり入って来ます。

さすがに映像作品で歌詞カードを眺めながら画面を観るというのはツライものがあります。

私はボス氏のライブ作品をいくつか所有していますが、英語が分からず、訳詞も一言一句を頭に刷り込んでいる訳ではないので、いつも生暖かい目で鑑賞していました。

しかし日本語字幕付きで観ることで熱狂する観客達の気持ちが少し分かった様な気がしました。

ちなみに他のボス氏の日本語字幕付きの純然たるライブ作品としては、「London Calling: Live in Hyde Park」がありましたが、現在では入手困難の様です。

私が所有しているものは経年劣化か?へたって来た様なので再購入したいところですが残念です。

以上、ブルース・スプリングスティーン『HIGH HOPES』私的全曲レビューでした。ありがとうございました。

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