ブルース・スプリングスティーン

ブルース・スプリングスティーン『MAGIC』私的全曲レビュー

今回の記事はブルース・スプリングスティーンが2007年に発表したアルバム「MAGIC」についてです。本作は2006年のカバーアルバム「WE SHALL OVERCOME : THE SEEGER SESSIONS」の約1年半後に発表された作品です。


マジック

MAGIC  全体的な感想

『MAGIC』2007年発表

2002年のロックアルバム「THE RISING」以降2作品を発表していますが、ロックアルバムとしては5年ぶりの本作となります。

「THE RISING」よりメロディーやサウンドデザインに重きを置いた、よりファン目線に近い発想で創られている印象で、とにかくボス氏のポップセンスに満ちています。

この頃のボス氏はキャリア何度目かのピークを迎え、大ベテランになっても決して衰えることのない才能が溢れています。

本作に収まりきれなかったものは、次作のポップアルバム「WORKING ON A DREAM」へとつながって行ったそうです。

歌詞は全般的に政治色が濃い様に思えました。リリースが2007年ですのでイラク戦争が泥沼化している真っただ中での制作だったのだろうと思います。

しかしあまり歌詞で攻めすぎるのはポップソングとして如何なものかと判断したのか? あからさまな政治批判はありません。

ただその分、観念的だったり宗教感に基づいていたり、あるいは行間を読まなければならない感じは、日本人の私にはちょっと難しかったですね。

MAGIC  各曲感想

1. Radio Nowhere

待ってました!これだよこれ!って言いたくなる様なシャープで疾走感溢れるロックンロールです。

グランジ感のあるエッジの効いたギターを中心としたバンドサウンド、明快なメロディー、間奏では”ビッグマン”のサックスと文句なしです。

歌詞は、ネットを始めとしたコンピュータに支配されている現在の音楽に対するアンチテーゼ、生々しく荒々しい息使いが聞こえる音楽の力、その有無や有効性を今一度問いかけているのかなと思いました。

2. You’ll Be Comin’ Down

ミドルテンポのパワフルなロックです。更にメロディアスで爽快感もあり、ボス氏の歴代作品の中でもお気に入りの一つです。

歌詞は権力者に対してのものでしょうか?「すべては結局自分に戻ってくる、おまえは落ちてくる」これは、熟語で言えば因果応報とか自業自得について歌っているのかなと思いました。

3. Livin’ In The Future

不朽の名作「BORN TO RUN」の名曲「Tenth Avenue Freeze-Out(凍てついた十番街)」とよく似たテイストのソウルフルでパワフルなロックナンバーです。

「Tenth Avenue Freeze-Out」から30年以上経過しているにもかかわらず、ボス氏の変わらぬパワフルさには脱帽です。もちろん”ビッグマン”のサックスも聴けますので満足です。

歌詞は「思い悩むな、俺たちは未来に住んでいる、このことは何ひとつまだ起きてない」と一見前向きですが、今にきっと起こるだろうと言っている様にも聞こえます。

様々な事柄について時間は残されていないことに人々は気付いていないという…

4. Your Own Worst Enemy

6. 「Girls In Their Summer Clothes」と似たテイストの曲です。とかくシングルカットされた6.が取り沙汰されがちですが本曲も負けていないと思います。

本曲があまり話題にならなかったのは歌詞とのマッチングなのかも知れません。

歌詞は正直何のことだかよく分かりません。「最大の敵が町にやってきた」の最大の敵とは何でしょう? 政治的なイデオロギーのことでしょうか? 保守orリベラルみたいな。

5. Gypsy Biker

ハーモニカが印象的なシンプルでブルージー感のあるロックンロールです。間奏では控えめですがキダーバトルも聴けます。

メロディアスというほどメロディーは明確ではありませんが、進行がスムースですので聴きづらさはないと思います。

ここまで素晴らしすぎる曲が続いてきたので、少々物足りなさを感じてしまいますが、それは贅沢以外の何物でもありませんね。

歌詞に出てくる主人公の友人はイラク戦争で戦死した様です。戦争はいつだって平和を守るために殺し合うという、何が正義なんだか分からないことを嘆いているのかも知れません。

善だろうが悪だろうが死んだら終いという…

6. Girls In Their Summer Clothes

本作を代表する曲の一つでグレイトなポップソングです。本作制作の後半から既に動き出していたという次作の「WORKING ON A DREAM」に本曲と4.が特に受け継がれている様な印象を受けました。

余談ですが、私は英語が分からないので初聴の時、「~クロース」の部分や曲調からサンタクロースでクリスマスソングかな?と恥ずかしながら勘違いしてしまいました。

ところがまさかの夏の歌だったというね…でもサウンド的にはこのまま、もしくは少しアレンジすればクリスマスソングでも十分行けちゃいそうです。

そのくらいとてもフレンドリーな曲だと思います。でもまあ、歌詞はいじれないのでこの曲をクリスマスソング化するのは無理でしょうけども。

ただ私は聴いたことはないのですが、本曲がシングルカットされた際に「Album Version」と共に「Winter Mix」なるものが収録されている様ですのでいつか聴いてみたいとは思っています。

歌詞は夏の夕暮れを物思いにふけながら町の様子をスケッチした様な感じです。主人公は、通り過ぎる汚れを知らない無垢な少女達に、くたびれた心が癒されている様です。

同名の有名な短編小説があるそうですが、読んだことが無いのでどの程度インスパイアされたのかは分かりません。

7. I’ll Work For Your Love

チャーミングなピアノのイントロから始まるポップロック。前曲からの流れは本作一番だと思います。イントロからエンディングまで終始流れる様にメロディアスで文句なしです。

歌詞はラブソングで終始「俺は努力する、おまえの愛のため」と言っています。

ただ、「他の男たちがただで手に入れようとするもののため」とも言っていて、それが何なのかはよく分かりません。愛でしょうか?信仰でしょうか?金でしょうか?

8. Magic

基本的に弾き語りのフォーク?カントリー?ソングです。タンバリンが終始鳴っていますが、装飾は最小限に抑えられています。西部劇の主題歌・挿入歌的なウエスタンな雰囲気も感じました。

リリース当時は、何でこの曲のタイトルがアルバムタイトルなのだろう?と、地味な曲なのでスキップしていた覚えがあります。

元来こういうタイプの曲は苦手なのですが、私も歳をとったせいか今では全然苦ではないですね。それなりにテンポもありメロディーもはっきりしているので、今となっては結構好きです。

歌詞は、まるで手品の様に庶民を華麗に欺く権力者。騙されてはいけない、気を付けないと「それはやがて現実になる」という警告でしょうか? 3. に通じるものを感じました。

9. Last To Die

流麗なストリングスから始まる少しダークなロックンロールです。詩の世界観から言えばふさわしいと思います。しかしやはりメロディアスなので聴きやすさはちゃんと担保されています。

歌詞はイラク戦争に対する政治批判だそうです。「最後に死ぬのは誰か、過ちに対し」という問いかけ。

それは、誰が最終的に責任を取るのか? 辞任したところでそんなんもん責任とったことにならないよな?、取り返しつかないよな? と言っている様な気がしました。

10. Long Walk Home

軽快なフォークロックです。と言っても爽やかさはほどほどに抑えられています。前曲からの流れから言えば少し明るさを取り戻した印象の曲です。

一転してご陽気になっても聴き手に違和感を与えるかも知れませんので、この位がちょうど良いと思いますね。

これまたメロディアスで”ビッグマン”のサックスも聴けますので何の文句もありません。

歌詞は、素直に聴けば名曲「マイホームタウン」の逆、故郷に歩いて戻る話ですが、その故郷とは実はアメリカ国家のあり様を指しているのだとか…長い時間が掛かっても国家として戻るべき場所がきっとあるはずだと。

11. Devil’s Arcade

淡々と静かに流れていくバラッドです。この曲もリリース当時はスキップしていましたが食わず嫌いでした。

不穏な効果音から始まりストリングスが少し顔を出すも、歌い出しから暗く、そのまましばらく続いて行くので早々に離脱する人が多そうです。

しかし2分10秒を過ぎた頃にドラマチックな間奏が用意されています。そこまで聴ければきっとエンディングまで聴けることでしょう。

歌詞は故郷や愛する人を想う戦場のワンシーンで、それ以上それ以下でもないリアルを感じましたが、私の感性ではピンと来ませんでしたね。

12. Terry’s Song

亡くなった長年の友人の追悼曲として書き下ろしたものだそうです。

弾き語りのフォークソングですが、ボス氏のとてもパーソナルな作品なので良い悪い・好き嫌いの感想を述べる必要はないと思いますね。ただ、あえて本作に収録する必要があったのかな?という気はしますが…

歌詞の「君を作った時、彼らは鋳型を破壊した」というフレーズは、どんなに素晴らしい建造物を作ったとしても、生命より偉大なものはないということでしょうか?

様々な実例を挙げるなどユニークな歌詞ですが、ちょっとよく分からなかったですね。

以上、ブルース・スプリングスティーン『MAGIC』私的全曲レビューでした。ありがとうございました。

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