ブルース・スプリングスティーン

ブルース・スプリングスティーン『THE RISING』私的全曲レビュー

今回の記事はブルース・スプリングスティーンが2002年に発表したアルバム「THE RISING」についてです。

本作は1995年の「THE GHOST OF TOM JOAD 」以来7年ぶりに発表された作品です。また、Eストリート・バンドとの作品としては「BORN IN THE USA」以来の18年ぶりの作品となります。


The Rising by BRUCE SPRINGSTEEN

THE RISING  全体的な感想

『THE RISING』2002年発表

9.11(米国同時多発テロ)の影響が色濃く見える作品です。ボス氏本人もそれを認めていて、この作品はインスピレーションの赴くままに一気に創り上げたものだそうです。

当時、2002年7月末発表と9.11の悲劇から1年も経たないうちでのリリースでしたので、かなりシリアスなものになるのでは?とは予想していました。

そういった事前情報のバイアスが自分自身に掛かっていたこともあってか、案の定といった感じの作品で、18年ぶりのEストリート・バンドとの共演という割には必ずしも快活な作品ではありません。

かと言って正座して聴かなきゃいけないというほどでもありません。

繰り返しで恐縮ですが、本作は2002年作品で1990年代のボス氏というと1992年の「HUMAN TOUCH」「LUCKY TOWN」、1995年の「THE GHOST OF TOM JOAD 」のみでしたので、アルバムコンセプトはどうであれ、Eストリート・バンドと共に戻って来てくれたことに対してはとても嬉しかったことを覚えています。

歌詞は、当然のことながら前年に起きた9.11テロをイメージさせるものが多いことは言うまでもありません。

サウンドは名作「BORN TO RUN」以来となるストリングスの大胆な導入が謳われていて、当時かなり期待したことを覚えています。

たしかに随所にストリングスが使われています。しかしストリングスありきのアレンジは思いのほか少なく感じました。

何と言うか、私的にストリングスをあとから追加した様なものが多い印象で、当時、がっかりとまでは言いませんが、ちょっと期待していたイメージとは違うなぁという印象でしたね。

にしても演奏にストリングスが加わると、バンドサウンドがよりドラマチックに仕上がることは間違いのないところだとは思います。

また曲調も多彩で、7.、8.では以前のボス氏には見られなかった様な作風、意欲的とも言える新たな試みも見られます。曲数も全15曲とボリューム満点です。

全体的には、個人的に好みに合う合わないは多少あるものの”概ね”満足できるアルバムです。と言うのも、なんかこう、何かが足りない気がしてならないのです。

その物足りなさを感じる原因は、本作は18年ぶりのEストリート・バンドとの共演にもかかわらず、”ビッグマン”ことクラレンス・クレモンズのサックスが3.以外いない?ことかも知れません。

あとはまあ、本作の主たるテーマ自体がシリアスなので、各曲がそれ相応の雰囲気をまとっていることも物足りなさを感じる原因かなと思っています。

何はともあれ、21世紀におけるボス氏の活躍は本作が起点になっていることは間違いのないところで、そういった意味では記念碑的な作品とも言えそうです。

THE RISING  各曲感想

1. Lonesome Day

ミドルデンポのパワフルなロックです。初聴の時は待ち望んでいたボスが帰って来たと喜んだのを覚えています。

ストリングスから始まり「Born In The USA」にも通じる?イントロ、分かりやすいメロディーにアレンジ、威勢のいいコーラスとサービス満載な一曲です。

特にアレンジをリードしている、ボーカルの背後の繰り返されるシンセのメロディーが秀逸で、あのメロディーに「Lonesome Day」というフレーズを乗せてコーラスしてくれたら尚良かったかも。

ボス氏のボーカルの背後に「Lonesome Day, Lonesome Day, Lonesome Day…」というコーラス、そう、フィル・スペクター風ウォール・オブ・サウンドです。

ああでも、そうするとポップ過ぎちゃってよろしくないかもですね。うーん…難しいところです。

歌詞は家族を失った者の悲しみや願いを歌ったものです。「卑劣な報復が過ぎ去ることを祈り、何が真の問題なのかを訊ねた方がいい」と歌っています。

報復は報復を呼ぶだけ。その後泥沼化したイラク戦争が脳裏をよぎります。

米国の行いが9.11を生んだのは間違いありませんが、宗教の違い、安全保障や原油などの経済の事情などを考慮すると、米国としてもおとなしく、じっとはしていられないのも理解出来る様な…

2. Into the Fire

フォーク・カントリー風味のミドルテンポの曲です。フォークロックといっても良い気がしますが、全体的にはサビが結構メロディアスなのでポップロック的な印象もします。

ただ初聴の時はそのイントロ・歌い出しから、2曲目でもうこんな感じですか?と萎えた記憶があります。今回久々に聴いたらそんなに嫌いじゃないですね。

最初の1分を過ぎたあたりからバンドが加わって来ますので、そこまで我慢出来たら最後まで聴けちゃうと思いますね。

ただ、バンドと言ってもサウンドをリードしているのはリズム隊なので派手さはありません、あとはボス氏お馴染みのホワーン系のシンセですね。

あと余談ですが、サビはどこかで聴いた覚えがあるメロディーでした。

確認はしていませんが、自分としては80年代前半に活躍した女性シンガー、シーナ・イーストンの大ヒットしたデビュー曲「モダン・ガール」だったかな?が脳裏を駆け巡りました。

一応念のため言っておきますが、べつにパクリ云々というつもりはありません。

繰り返しになりますが、確認していませんので本当にそっくりかどうかも分かりません。

単に私の脳に誤った形で変換されインプットされているだけかも知れません。仮に本当にそっくりだったとしても、それがどうした?って話でもあります。

要は良いメロディーだって話です。はい。

歌詞は消防士の妻の思いでしょうか?「愛と義務の為に階段を昇り、火の中へ」、「あなたの力・信仰・希望・愛が…私たちにも」と。

過酷な任務を遂行できるのは限られた・選ばれた人間のみであり、私たちは彼を送り出し、あとはただ祈ることしか出来ないという主人公のもどかしい思いを感じました。

3. Waitin’ on a Sunny Day

ミドルテンポのフレンドリーなポップソングです。ライブでは観客、特に子供をステージに上げることがお約束になっている様です。

そんなくらいなのでとても健康的で、ある意味無害な人気曲ですね。ビッグマンのサックスも聴けます。

本作のコンセプトから言えばこの曲の存在には若干の違和感を感じますが、シリアス一辺倒というのも如何なものか?という意味ではアリだとは思います。

歌詞は、主人公は愛する人を亡くした悲しみを抱えながらも、何とか前向きに生きて行こうと自分に言い聞かせている様です。

「夏のそよ風」を愛する人の「ため息」ととらえ、「大丈夫、心配しないで何とかやって行けるから」と返事をしています。

それでも「あなたに戻って来て欲しい」と心情を吐露し、「待っている、太陽が輝く日を」と、まだまだ傷は癒えていない、前向きになろうとするも、その目は涙が溢れている様に感じました。

4. Nothing Man

しっとりとしたスローソングです。バウンドサウンドになっているからかそんなにフォーク臭は感じませんでしたね。お得意のホワーン系シンセが印象的です。

本曲もまずまずメロディアスです。曲調としては90代以降のボス氏のスローソングにおいて度々見られる作風といった感じで「Streets of Philadelphia」や「Secret Garden」の系列のものに近いかなと感じました。

ただ、この手の淡々としたスローソングはドラマチックさがない分、どうしても全体的に地味な印象になりますのでスキップする人は多めかも知れません。

歌詞は救助活動から生還した若者の心情を歌ったものでしょうか?

何でもないただの男である自分が新聞記事になったり、そうかと思えば何事もなかったかの様に平常運転な町の風景。

「シルヴァーの銃身、私に実行する勇気をお与え下さい」という不穏な言葉からは、主人公のメンタルはかなりやられていると思われ、いわゆるベトナム帰還兵問題とも相通じるものを感じました。

5. Countin’ on a Miracle

メロディアスで疾走感もあるロックンロールです。個人的には本作で一番好きな曲ですね。

アコギでポロポロと佐野元春さんの名曲「Wild Hearts」風に静かに始まったかと思ったら、その後力強く展開して行きます。是非、歌詞カードを読みながら聴いて欲しい一曲です。

その歌詞は個人的に12.同様、かなりグッと来るもので、リリース当時数えきれないほど歌詞カードを読んだことを覚えています。

内容は愛する人を失った人の心情を歌ったものです。「私には残っている、あなたのあらゆる事が」、「私は生き続ける、自分の人生をあなたのところまで高めたい」と前向きな反面、「誰が何と言おうと、それでも私は奇跡を当てにしている」という正直な思いも語っています。

6. Empty Sky

ミドルテンポのフォークロックです。2.や4.と似た感じと言えば言えなくもないですがロック色は強めですね。

特にアコギが力強く、お得意のホワーン系のシンセも印象的です。ボス氏の曲としてはそんなに珍しいタイプの曲ではないと思います。

ただ全体的にはしっとりとしているいうか、ブルーなオーラに包まれている印象ですが、しばらくぶりに聴いた割には聴きづらさは感じませんでした。

歌詞は、彼は寝ている自分を起こさない様に静かに出動し、最後の別れが出来なかったという女性の想いを歌っているものだと思います。

朝、目が覚めると彼はいなく、自分の目に映ったものはただただ虚しい空だけだったという…

7. Worlds Apart

ボス氏の作風としては異色な曲と言えると思います。女性のゲストボーカルを迎えたり民俗音楽を取り入れたりと全体的にはアフリカンな印象の曲です。

もはや死語だとは思いますが、80年代後半あたりにブームになり、盛んに使われていた”ワールドミュージック”という言葉を思い出しました。

しかし終始そんな感じかというとそうではなく、その感じは冒頭から2分あたりまでで、以降はパワフルなロックに変化します。

ボス氏?のエレキもキュイーンキュイーンとイカしていますし、ドラムもとてもパワフルです。

リリース当時はボス氏っぽくないということで、最初の1分ぐらいで離脱した覚えがあります。

そして今回この記事を書くにあたって本作を久しぶりにじっくりと聴いたのですが、私的に本曲はかなり大きな再発見でしたね。

こういった冒頭の1, 2分は地味であったり、本曲で言えば意外だったりするも、その後にガーンと来る展開は本作以降?度々見かける展開です。

ですので、近年の新作リリース時には早期離脱しない様にしています。ま、私も歳をとったことで、若い頃に比べて辛抱がきく様になったというのも大きいとは思いますが。

歌詞は宗教感の違いを何とか乗り越えたいというボス氏の切なる願いを感じました。人間の真理はキスの中に存在している、キスは宗教を乗り越えられるはずだと。

8. Let’s Be Friends (Skin to Skin)

タイトル通りのフレンドリーなポップソングです。穏やかで暖かいムードにはレゲエっぽさを感じました。

歌詞は前曲同様に宗教の違いを乗り越えようと歌っているものです。しかしそのチャンスは多くはない、そのチャンスを決して逃してはならない。

そう簡単には宗教の違いは乗り越えられないと言っている様にも聞こえます。

9. Further On (Up the Road)

メロディアスでシンプルなロックンロールです。シンプル・ストレートそして渋さ・ルーズさもあり、リリース当時好んでよく聴いた曲です。

歌詞は、戦地あるいはそこへ向かう者の心情だとは思いますが、イマイチ抽象的でよく分からなかったですね。

10. The Fuse

一言で言えばソウルフルな曲です。いや、やっぱり一言では言い表せないですね。曲調はゆったり目ですが、ヒップホップ・ファンク・サイケっぽさも感じました。

またドラムを始めとしたリズム隊も印象的で、ゆったり目な割りにはハードな曲に感じたりもしました。ですので結構不思議な魅力がつまった曲だなぁという印象です。

何かのジャンルに落とし込むのであれば2002年作品ということを鑑みれば、ミクスチャーロック・オルタナティブロックに該当するのかも?…よく知りませんが。

まあ、いわゆるボス氏らしさはあまり感じられない曲かも知れませんが、都会的というか斬新な感じがして、あれ?こんなにカッコ良い曲だったっけ?と思いましたね。

7.と共に今回再発見出来てとても良かった曲です。

歌詞は正直イマイチピンと来ませんでした。主人公は、出兵なのか?人知れずイヤな予感を感じているのかも知れません。

11. Mary’s Place

1980年前後の作品を思わせる軽快なロックンロールです。往々にしてこの手の曲は3分間くらいのコンパクトなものが多いですが、本曲はちょっとしたロックショー的な構成になっており、時間はほぼ6分にも及びます。

しかし、本作は9.11に強く影響を受けたアルバムという情報が頭に染み付いていたので、あまり心から楽しめないというか妙な違和感を感じました。

本来この手の曲は大好きなので、もし、ほかのアルバムで出会っていたらこの曲に対する印象は違ったものになっていたかも知れません。

3.も明るい曲ですが、あちらはいかにも健康的な感じだったからかそんなに違和感は感じなかったのですが…

歌詞は、愛する人を亡くした人がひと時の休息を求めて「メアリーの家で会おう、パーティーがある」と前向きになろうとしています。

ただ、パーティなのに「雨よ降れ」というフレーズは意味がよく分かりませんでした。悲しいことは雨に流してもらおうということでしょうか?

12. You’re Missing

ストリングスが印象的なバラッドです。リアリティのある切ない歌詞を美しいメロディで歌っており、ボス氏の全キャリアを通じても本曲を代表曲に挙げる人もいるほどの名曲です。

歌詞は愛する人を亡くした女性のそこはかとない悲しみを描いています。「みんなそろっている、足りないのはあなただけ」「このベッドは私には大きすぎる」「神は天国で彷徨い、悪魔は郵便受けに」ほか、その歌詞の具体性に圧倒されます。

13. The Rising

アルバムタイトル曲の力強いミドルテンポのロックです。威勢のいいコーラスが印象的です。

9.11に強い影響を受けた本作を象徴する一曲ですので、ノリの良さや明るさはありませんが、腹をくくった力強さみたいなものがみなぎっています。

歌詞は、テロの被害者を救出するために炎と煙が立ち込めるビルの階段を昇って行く消防士の心境を描いています。

そこには職務や使命を超えた、もっと大きくそして偉大なる心が見えた気がします。

14. Paradise

基本的に弾き語りのスローソングです。ボス氏のスローソングでお馴染みのホワーン系のシンセが終始鳴っています。

弾き語りですがフォークっぽい土臭さは感じませんでした。メロディーもあまり立っていませんが、暗いというよりかは厳かな印象で、神聖な気持ちすら湧いてくる様な気がした曲です。

歌詞カードの最終ページに、「この曲の時間は5:34となっていますが、実際にはその約2秒後にこの曲は完全に終わります。これはアーティストの意向によるものです」と書かれています。

ボス氏のその意図は私には分かりませんでしたが、この曲に対する強いこだわりがあるのは間違いない様です。

歌詞は観念的でよく分かりません。ただ、最後の最後に「ぼくは水の上に躍り出る…」とあるので、ある種の希望は見出せます。

15. My City of Ruins

フォーキーなロックバラッドです。オルガンを始め、品の良いバンドサウンドを聴かせてくれますす。

憂鬱からの脱却、「Come on, rise up!」のボス氏の力強い歌声やサウンドは「「闇に吠える街」の作品に通じるものを感じました。

歌詞は、「僕の町は廃墟と化したが、手を合わせ神に祈り、さあ、立ち上がれ!」と聴き手を何度となく鼓舞します。

本作はテーマがテーマなだけにシリアスな歌詞が多かったですが、アルバムの最終曲、締めくくりとしてとてもふさわしい歌詞だと思いました。

以上、ブルース・スプリングスティーン『THE RISING』私的全曲レビューでした。ありがとうございました。

The Rising by BRUCE SPRINGSTEEN