ブルース・スプリングスティーン

B・スプリングスティーン『WE SHALL OVERCOME~』私的全曲レビュー

今回の記事はブルース・スプリングスティーンが2006年に発表したアルバム「WE SHALL OVERCOME : THE SEEGER SESSIONS」についてです。

前作が「DEVILS & DUST」というフォーク系のアルバムでしたので、その次作である本作には創り込まれたロックアルバムを期待したいところでしたが、わずか1年でのリリースであることを考えればあまり贅沢は言えませんね。

で、本作の内容は?と言うと、アメリカの伝説的なフォークシンガーのピート・シーガー氏のカバー集、ボス氏初めてのカバーアルバムになります。


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WE SHALL OVERCOME : THE SEEGER SESSIONS        全体的な感想

『WE SHALL OVERCOME : THE SEEGER SESSIONS』2006年発表

繰り返しになりますが、本作はアメリカの伝説的なフォークシンガーのピート・シーガー氏のカバーアルバムになります。

恥ずかしながら私は、勉強不足により本作を聴くまではピート氏のことをろくに知りませんでした。

本作には収められていませんが、代表曲に「花はどこへ行った」があり、この曲については何度か耳にしたことがあります。

本作は2005年作品ですが、ピート氏は2014年に94歳でお亡くなりになられたそうです。

そのピート氏の数々の功績はあまりにも偉大で、ボス氏はもとより、あのボブ・ディラン氏からも師として仰がれていたそうです。

前置きが長くなった上に更なる前置きにはなりますが、今回本作の私的レビューを書くにあたってピート氏による原曲は確認しておらず、あくまでも本作についてのものになりますことをご了解願います。

さて、フォークソングというとなんか辛気くさく・涙ぐましく、なんだか景気悪いイメージが私の中にはありました。

しかし本作はボス氏の解釈に基づいたカバー作品で、サポートメンバーもガッチリと固めたバンドサウンドに仕上がっています。

ですのでボス氏のこれまでにみられたフォークアルバムとは明らかに一線を画しています。

ヴァイオリン・アコーディオン・オルガン・バンジョー・ホーン他でトラディショナル且つご機嫌なアンサンブルを聴かせてくれていて、スウィンギング&ダンサブル、適度なスピード感やパワフルさを感じられる曲が大半です。

本作はフォークソングのカバーアルバムですが、私的にはアンプラクドなフォークロックアルバムといった印象です。

また、本作以降ボス氏の作品ではアイルランド音楽を取り入れた曲が度々見られますが、本作がそのきっかけになったのかな?と想像しています。

あと、「WE SHAL OVERCOME…」ってフォークのカバーなんでしょ? 遠慮しときますわ…とこれまで食わず嫌いで本作をスルーしてきたボス氏のファンの方におすすめしたい作品です。百聞は一見にしかずならぬ一聴にしかずです。

内容的には統一感のあるバンドサウンドなので、最初は似たような曲がズラリと並んでいる印象を受けました。

しかし聴き込んでいくとどの曲も個性的です。また、ボス氏のフォークアルバムにありがちな暗さは基本的にはありませんのでご安心を。

あまり気合いを入れて本作に向かうのではなく、とりあえずBGM的な聴き方から始めるのが良いかなと思いますね。

あと、本作にはいくつかのバージョン、CD・DVD付き・DVD付き(アメリカン・ランド・エディション)等が用意されていて、ボーナストラックの有無やその曲数が異なりますが、各曲感想は本編の曲、13曲のみとしています。

WE SHALL OVERCOME : THE SEEGER SESSIONS        各曲感想

1. Old Dan Tucker

このアルバム、フォークのカバーなんだよな…1曲目だからそれなりにはメロディアスでもどうせ地味なんだろうなといった感じで、期待せずに聴き始めました。

そしていざ曲が始まるといつものボス氏の威勢のいいボーカルが飛び込んできました。

サウンドはアコースティックでトラディショナルな感じですが、とてもご機嫌なアンサンブルを聴かせてくれます。

あくまでも私の妄想ですが、大昔のフォークダンスのパーティーで、盛り上がりがピークに達した頃に演奏されそうな陽気な感じの曲です。

歌詞も主張などはなく「どいてよ、ダン・タッカー爺さん…」と繰り返し、愛らしいキャラの歌でみんなで歌って踊って盛り上がろう!ということなのかなと思いました。

2. Jesse James

イントロ・歌い出しからいかにもなフォーク。と思いきや、しばらくするとバンドサウンドになります。

しかも陽気な感じですので、フォークロックと言うよりもはやロックンロールの様相を呈している楽しげな曲です。

歌詞は実際に起きた事件を題材にしているそうです。それは曲調の陽気さとは裏腹に殺人事件に関する内容なので訳詞を読んだ時はちょっと困惑しましたね。

ふとボス氏の「Johnny 99」のライブで披露されていたロックンロールver.を思い出しました。

3. Mrs. McGrath

ヴァイオリンから始まるメロディアスなミドルテンポの曲です。言葉の意味は分かりませんが、繰り返される「トゥーラーリーフォ、ルーディエー、トゥーラールーラ…」がとても印象的で、大元はどこかの民謡・民族音楽なのかな?と思いました。

歌詞は反戦歌で出兵した息子を憂う母親の心情が詳細に書かれています。帰還した息子の両脚はなく、2本の木の棒を足代わりにして戻って来たという…

4. O Mary Don’t You Weep

色っぽいヴァイオリンの長めのソロから始まるムーディーな曲です。1.の様な健康さはありませんが、これはこれでダンサブルな感じはします。

ダンスと言っても酒場でのダンス、大人のダンスな印象です。

歌詞は、ライナーノーツによるともっとも重要な黒人霊歌だそうです。無信仰の私にはちょっと分かりづらい感じがしました。

5. John Henry

こちらもヴァイオリンから始まりますが前曲とは異なり軽快です。この曲はセッション感がよく出ていてほぼほぼロックンロールですね。

アコーディオン、オルガン、バンジョーのソロが聴けるなどごきげんな一曲です。

歌詞は、ライナーノーツによると人間対機械との闘いを歌ったものだそうです。ハンマーの代わりに蒸気ドリルの登場、産業革命時のある種の混乱をスケッチしたものの様です。

商売道具で相棒とも言えるハンマーを愛し、それが命取りになることを知りながらもハンマーを打ち下ろし続け、遂には自身の心臓が悲鳴を上げ命を落としたという…

6. Erie Canal

バンジョーのイントロから始まるダンディーな雰囲気の曲です。80年代にウイスキーのCMで似た雰囲気の曲があった覚えがあります。そのせいか酒場に合いそうな気がしますね。

歌詞は貨物船乗組員の歌の様です。「低い橋、みんな頭を下げろ」と運河航行中なのは分かりますが、歌詞全体としては何が言いたいのかよく分かりません。

理屈や主張は抜きのあくまでも貨物船員御用達の歌、貨物船乗りならこの歌は外せない、知っておくべき歌なのかなと思いました。

7. Jacob’s Ladder

これはもうフォークロックというよりロックですね。本作はセッション形式のライブ録音とのことですが、その感じが一番出ている曲かなと思います。

ヴァイオリン・ホーンのソロや軽快なピアノに元気なコーラス。というか後半はほぼ大合唱です。ボス氏のメンバーに対する声掛けが度々聞かれてライブ感たっぷりです。

歌詞は、ライナーノーツによると黒人霊歌でヤコブが見た隷属からの脱出の夢が描かれているそうです。

「ヤコブの梯子を上っている、一段上がるたびに強くなる、俺たちはみんな兄弟姉妹」と希望の歌ですね。

8. My Oklahoma Home

軽快且つのどかな雰囲気があるフォークロックらしい曲です。全体的にリラックスムードに包まれていてクセが無いので誰もが抵抗なく聴ける曲だと思います。

歌詞は、砂嵐で我が家や家畜が吹き飛び、竜巻で妻を失い、残ったのはローンだけという散々な目にあった男の歌です。

しかしその失ったもの全ては砂と共に故郷の空中・大空に存在しているのだと前向きです。

9. Eyes on the Prize

ダークな感じがボス氏のフォークっぽいですね。ボス氏の息をひそめた・気配をうかがう様な歌い方が印象に残りました。

しかしメロディアスなので途中で聴くのを挫折したくなるほどダークではありません。

歌詞は、ライナーノーツによると賛美歌だそうです。「闘い抜こう、がんばろう、最後の勝利から目を放すな」とは自由を求めてのことの様です。

また、歌の最後には「~聞いたことがある、天国の通りは黄金で舗装されていると」とその闘いが命がけであることがうかがえます。

10. Shenandoah

前曲は賛美歌でしたが、私的にはむしろこちらの方が賛美歌的、あるいは鎮魂歌的な厳かな雰囲気の曲でとても神聖なものを感じました。

歌詞は、ライナーノーツによると19世紀初頭に創られたアメリカ開拓者の悲恋歌だそうです。

愛する人を置いて一足先にアメリカへ渡るも、苦労続きの開拓者がいかに多かったか、だからこそこれだけ長きに渡り歌い継がれているのでしょうね。

11. Pay Me My Money Down

1.と近いかも知れません。ダンサブルでフォークダンスに合いそうな曲です。陽気に騒いで踊ってイヤなことはみんなで忘れよう!的な健康的な明るさを感じました。

しかし歌詞はシリアスなもので、賃金を支払ってもらえない船乗りの怒り・叫びに終始しています。

ライナーノーツによるとその船乗りは黒人で実際によくあった出来事だそうです。払うべき給料をくすねた船長に対して「金を払え、俺の金を払え」と訴えています。

こういう歌からもかつていかに黒人が奴隷扱いされていたかがうかがえます。

12. We Shall Overcome

アルバムタイトル曲です。サウンドとしては本作を象徴する様なものではありません。

とても穏やかなオーラに包まれており、ボス氏の歌声もまるで我が子に子守唄でも聴かせているかの様な優しさに溢れています。

そういった意味では本作の最終曲でも良かったかも知れません。何らかの意図があってあえてそうしなかったと思われますがその意図が何なのかは分かりません。

もしかしたらライナーノーツのどこかに書いてあったのかも。いつかちゃんと読みます。

歌詞は曲調の穏やかさとは裏腹に「私たちは平和に生きるだろう、いつの日か」「私たちは打ち勝つだろう、いつの日か」と平和と正義を歌っていて、超有名なプロテストソングだそうです。

13. Froggie Went a Courtin’

軽快さと爽やかさがほどほどにある曲です。踊ろうぜ!騒ごうぜ!という感じではなく、午前中のサイクリングやピクニックなどのお供に良さげな曲です。

歌詞も肩の力の抜けたユーモラスな内容です。「ネズミちゃん…アーハー、アーハー」「結婚式…アーハー、アーハー」と。

以上、B・スプリングスティーン『WE SHAL OVERCOME~』私的全曲レビューでした。ありがとうございました。

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