ブルース・スプリングスティーン

ブルース・スプリングスティーン『WESTERN STARS』私的全曲レビュー

今回の記事はブルース・スプリングスティーンのアルバム「WESTERN STARS」についてです。2014年の「HIGH HOPES」以来となる5年ぶりの新作です。主に70年代初頭の西海岸のポップロックにインスパイアされた作品だそうです。

ウエスタン・スターズ (通常盤) (特典なし)

WESTERN STARS  全体的な感想

WESTERN STARS』2019年発表

主に70年代初頭の西海岸のポップロックにインスパイアされた作品だそうです。ボス氏本人はこのアルバムを宝石箱の様なアルバムと言っている様ですが、それほどキラキラ感は感じませんでした。まあ宝石箱=キラキラ感とは限らないのでしょうけども。私的には「WORKING ON A DREAM」の方が宝石箱感は高かったですね。

全体的には大らかでゆったりとし、どれも聴きやすいメロディであるとの印象を受けました。

サウンド的には今作はストリングスが多用されています。ストリングスが活躍しているアルバムというと「BORN TO RUN」、「THE RISING」などが印象に残っています。

今作は単にストリングスが活躍しているだけでなく、7.などはまるで映画音楽の様なオーケストレーションでとても気持ちが良いです。逆にそれらのないオーソドックスなアレンジだったら地味なアルバムになったのではないかと思います。

歌詞については自分の脳内にインプットするほど完全に熟読した訳ではありませんが、様々な異なる境遇の者達のそれぞれのストーリーが綴られている短編集の様な印象です。

またそれらのストーリーは各曲の登場人物が人生を生きて来て、たどり着いた先、ある種の場所を描いたもので、このあたりは豊富な人生経験を積んだボス氏ならではの視点だなと感じました。

WESTERN STARS  各曲感想

1. Hitch Hikin’

1曲目なので掴み的なキャッチーな曲だろうと思っていたら、いきなりボス氏の凄みのあるドヤ声が飛び込んできて面食らいました。メロディーはハッキリしていますが、私的にはヘビロテで聴く曲ではないですね。

歌詞は、タイトル通りヒッチハイカーの歌です。孤独な主人公が人との出会いが目的でヒッチハイクをしている様です。なので行く先は未定で風任せ・運任せなのだろうと思います。

2. The Wayfarer

本作の全体の雰囲気を表した様な曲です。穏やかな曲で起伏も少ないですが、メロディーがしっかりし、ストリングスやホーンも効いているのでスキップして避けてしまうほどではないですね。

歌詞は、安息の地を探しているのか、孤独な男が町から町へと夜中に車を走らせ、さまよい続ける男を歌っています。

3. Tucson Train

穏やかさもありつつ軽快感もあるポップソング。3曲目にしてようやく私が期待していた感じの曲に出会えました。この曲のアレンジもストリングス&ホーンが効いています。

歌詞は、かつて捨てしまった女性に対して、自分はかつての様な男ではないことを証明すべく、駅でその女性を待つ男を歌っています。その女性は本当に来てくれるのでしょうか?…心配です。

4. Western Stars

アルバムタイトル曲で渋みのあるスローソング。なにか沸々と煮えたぎる思いの様なものを感じました。

かつて「Yongs Town」や「Ghost of Tom Joad」はEストリートバンドによるロックver.に生まれ変わりましたがこの曲にもそれを期待したくなりました。

歌詞は、映画に出演しジョン・ウェインに撃たれたことが唯一の自慢の男の悲哀を歌っています。彼はブーツを履くことでかろうじて自身のプライドを保てている様です。ブーツを履いているうちはオレはまだ大丈夫だと。「Glory Days」にも通じるものを感じました。

5. Sleepy Joe’s Cafe

本作で唯一ご陽気感のあるロカビリー・ロックンロールです。70年代後半から80年代前半のボス氏を思わせる曲で、未発表曲を多数収めた「TRACKS」あたりに収録されていても違和感のない曲だなと感じました。

しかし当時の様な若さ溢れるギラギラ感や切迫感はなく、大ベテランとしての余裕が感じられてとても良いですね。こういうくだけた感じの曲もたまにはやりたいよね!というボス氏の声が聞こえた気がしました。

歌詞は、トラッカーやバイカーら事情を抱えた面々が集うカフェのことを歌っています。「Out In The Street」ほどご機嫌ではないですが、ひと時の休息、月曜日の朝なんて百万マイルの彼方だぜ!と歌っています。

6. Drive Fast (The Stuntman)

穏やかでゆったりとしていて、2.と似た質感の曲です。歌詞は、子供の頃から明日の事や怪我の事などは気にせずに生きて来て、やがてスタントマンになった彼。しかし恐怖を感じそれを和らげる薬を求めていたもう一人の自分もいた。

そして今となっては、ピンと鉄の棒を体に埋め込むことで何とか歩くことが出来ているという皮肉な現実。こんなくたびれた人生をはたして自分は望んでいたのだろうか?と自問する日々を過ごしている様です。

7. Chasin’ Wild Horses

この曲が始まると2.や6.と同様の質感を感じましたが、間奏やエンディングは宣伝・告知通りのまさに映画音楽といった趣きで感動しました。

どうせなら他の曲もこういう風にしてくれていたら尚良かったなという気がするほどに素晴らしいアレンジです。

歌詞は、子供の頃からの癇癪持ちで家族や友や恋人を捨てた男が、それらを忘れられずに後悔し苦悩しているという話です。

しかし彼は半ば諦めている様です。自身の気性や嫌な思い出を忘れることなど、そんなことはまるで野生の馬を追いかけるようなものだと。

8. Sundown

7.の感動も冷めやらぬ中、ピアノ、ストリングスから始まるイントロは、私的には本作一番の流れです。曲調はロックで本作で一番パワフルな曲だと思います。

歌詞は、自分のせいで去って行った愛しい人、その代償として孤独に苦しむ男。まさに因果応報。いまでは脳裏に焼きついた彼女の声だけを頼りに生きている男の歌です。しかしいずれ彼女は戻って来てくれるに違いないと希望は捨てていません。

9. Somewhere North of Nashville

フォークソングで1分52秒の小品です。歌詞は、愛しい人を捨ててまで掛けた音楽なのに、夢ははかなく破れ現在では虚しさだけが残っている男の話です。

10. Stones

穏やかでしっとりとしていて、2.や6.と似た質感の曲です。この曲は特にメロディーが秀逸です。

歌詞は、終始「それは俺がおまえについた嘘の数だ」と言われます。そのおまえとは自分自身ことなのかな?と思いました。自分で自分を欺く。自分に正直に生きることの難しさを感じました。

もちろん人間ですので他人にも嘘をついて来たのでしょう。嘘にしろ何にしろ、人は言いたいことを言うと往々にして後悔するそうですね。

11. There Goes My Miracle

7.と共に本作一押しの曲です。フィル・スペクター的?なサービス満点のロック、いわゆる間違いないやーつです。

これでもかと言わんばかりにサビを繰り返してくれますし、コーラスも素晴らしく、最初っからしまいまでボス氏の才能を堪能できてお腹いっぱいになります。

ボス氏のそういったポップセンスが大好きな方ならきっと満足できると思います。

歌詞は、大事な人を失った哀れな男の話です。しかしそれは誰のせいでもない、自分の胸に手を当ててもう一度よく考えてみるがいい。「愛の本」に書かれている規則のことをと。まあでも、とりあえず歌詩云々は抜きにして楽しめる曲です。

12. Hello Sunshine

先行MVとして公開された曲です。初見の時は?という感じで、あれ?宝石箱じゃなかったの?こういう感じなのぉ…という印象でした。

曲調としてはリズムにウエスタンを感じましたが、ゆったり・のんびりとした曲です。日向ぼっこに合いそうな曲です。

歌詞は、ひとりが好きで孤独を望んでいた男が、やがてその孤独に耐えられなくなり太陽にその孤独感を振り払う様にお願いしている男の歌です。人間一人では生きていけないということに気付くのがあまりに遅かったと悔いている様です。

13. Moonlight Motel

本作のラストを飾る静かなフォークソングです。メロディアスで優しい気持ちになります。曲のタイトルのせいもあってか夜聴くと寝落ちしそうになります。

歌詞は、あまり人が近寄らない汚らしいモーテル。でも自分たちにとっては秘密の場所だった。いまでは廃墟となってしまったこのモーテル。そこで切なく過去を想い返す男の歌です。「The River」が、ふと頭に浮かびました。

以上、ブルース・スプリングスティーン『WESTERN STARS』私的全曲レビューでした。ありがとうございました。

ウエスタン・スターズ (通常盤) (特典なし)