ブルース・スプリングスティーン

ブルース・スプリングスティーン『WORKING ON A DREAM』私的全曲レビュー

今回の記事はブルース・スプリングスティーンが2009年に発表したアルバム「WORKING ON A DREAM」についてです。本作は2007年の「MAGIC」から1年半弱で発表された作品です。

ワーキング・オン・ア・ドリーム

WORKING ON A DREAM  全体的な感想

『WORKING ON A DREAM』2009年発表

アルバムジャケットもいつになくカラフルで、ボス氏の顔はうつむいていますが、その表情はやわらかな笑みを浮かべています。

宝石箱の様なキラキラした珠玉のポップソング集の看板に偽りなしです。(ボーナストラックはちょっと?な感じはしますが)

ボス氏のコメントによると前作「MAGIC」のレコーディング時の終盤に本作の曲がどんどん出来て、ツアーの合間を縫って短期間で一気に創り上げたそうです。

収録されている曲を聴くと、長い時間をかけてじっくりと創り上げたのでは?と思えるほどにどの曲もとてもよく練り上げられている印象がしますので驚きです。

私的にはボーナストラック以外は全ておすすめですね。もちろん、ロック色が強くなきゃイヤ!と言う人にはおすすめしませんが…

WORKING ON A DREAM  各曲感想

1. Outlaw Pete

1曲目から8分に及ぶ大作。初聴の時は、事前情報では宝石箱の様なアルバムだと聞いていたので、1曲目から明るさ控え目な上にずいぶんと長い曲だなぁと面食らいました。

途中テンポが変わったりはするもののロックオペラというほど劇的なものは感じられませんでした。

曲調はメロディアスではあるものの終始怪しげな雰囲気に包まれています。

また、歌詞カードをちゃんと読んでいなかったこともあり、初聴以降この曲はしばらくスキップしていました。

しかしその後、日本語字幕付きのライブ作品「London Calling: Live in Hyde Park」での演奏を観て本曲に対する私の印象は一変します。

無論、その理由は歌詞にあります。その歌詞は「生後6ヶ月にして懲役3ヶ月を喰らった」という(笑)伝説の生来の悪党、アウトロー・ピートの誕生から死後までを詳細に描いている点です。

それはもはや歌詩というレベルではありません。”短編小説の様な歌詞”という表現ですら物足りないほどの物語性です。なるほどこの内容なら8分にも及ぶのも頷けます。

ちなみに本曲は絵本?化された様です。私は英語が分からないので所有はしていませんが、オムツをはいた赤ん坊が怪しげな雰囲気を漂わせながら仁王立ちしているカバーイラストが印象的です。

Amazonで購入可能でサンプル(試し読み)も見れますね。うーん、サンプル見たら欲しくなってきました…

また本曲はロックバンド”キッス”のメンバーが、本曲が自作のパクリである云々で訴える訴えないの話になったりもしました。しかし最終的には、ボス氏が好きでファンなので訴えないことにしたそうです。

本曲が何かと話題になったのは、そのクオリティの高さを物語っている証拠と言えると思います。ま、”キッス”はそもそも結構訴えちゃうタイプみたいですけど。

あと、本アルバムは宝石箱の様なアルバムと称されますが、こういったおとぎ話、ダークな輝きを放っている宝石が入っているのも全然ありかなと最終的には思っています。


Outlaw Pete (English Edition)

2. My Lucky Day

タイトル通りに明るく、メロディアスで爽快感・疾走感のあるロックンロールです。

1980年前後のボス氏の作品に通じるものがあり、間奏では”ビッグマン”クラレンス・クレモンズのサックスのソロが聴けたりと往年のファンも満足できると思います。

歌詞は、端的に言えば愛する人への感謝の気持ちを歌っています。

連戦連敗のダメな彼ですが、支えてくれている愛する人の弱い部分もちゃんと把握しているあたりに彼の愛情の深さが見てとれます。

3. Working on a Dream

アルバムのタイトルチューン。まさにキラキラしたミドルテンポのポップソングです。この曲はファンならずとも多くの人に受け入れられるのではないか?と思える様なグッドソングです。

歌詞は、歳を取り、手は長年の仕事ですっかり荒れてしまったが、いまだに夢は諦めていないといった内容です。

少々ベタな感じはしますが、まあいいでしょう。あと、名曲「Out In The Street」の主人公が、ふと脳裏をよぎりました。

4. Queen of the Supermarket

歌い出しからピアノメインのしっとりとしたスローバラッドかな?と思いきや、しばらくすると軽快なバンドサウンドによるロックンロールへと徐々に変貌して行きます。

後半ではライブのストリングス担当でお馴染みのスージーさん?のコーラスも聴けます。

歌詞は、スーパーのレジ係の女性に片思いをしている男の歌です。何気ない日常の中に実は素敵なものがあるんだよと言うことでしょうか?

それにしても、片思いしているレジ係の女性のことを「スーパーマーケットの女王」と表現するボス氏のセンスはさすがです。

5. What Love Can Do

シンプルで渋いミドルテンポのロックです。ここまで聴き進めてきて初めてのロックらしいロックの登場です。

しかしメロディアスなので聴きやすさはちゃんと担保されています。間奏はエレキでエンディングも短めですがエレキで締めます。

歌詞は、うーんちょっと宗教的・神話的でよく分かりませんでした。「愛に何ができるか教えてあげよう」とのことですが、一体何を教えてくれるのでしょうか?

究極的には「愛」こそが最強の武器で、「愛」に勝るものはないということを言いたいのでしょうか?

6. This Life

アルバム「MAGIC」の「Girls in Their Summer Clothes」をビーチボーイズ風にした感じでしょうか?メロディー・コーラス共にとても美しい曲で”ビッグマン”のサックスも聴けます。

歌詞は、この世だろうがあの世だろうが愛する人はただ一人といった内容です。

爽やかな曲調なのでシチュエーションは日中の印象を受けましたが実は夜で、詩の内容のロマンチックさが増幅する設定になっています。

7. Good Eye

前曲とは一転してミステリアスでサイケ感もあるR&B風味のロックです。ボス氏のボーカルもモノラル?に加工されています。

そのボーカルがまた激烈にパワフルです。それはロックの激しさというよりソウルの激しさ、ジェームス・ブラウン的なものを感じました。

あまりにボス氏のボーカルが激しすぎるので、クリアでない音質に加工したのかな?と思えるくらいの激しさです。いつか無加工のボーカルを聴いてみたいものです。

また、意図は分かりませんが「ドゥオン・ドゥオン」と終始鳴っているリズム音やハーモニカも印象的です。

歌詞は、ラブソングの形態ですが抽象的でよく分からないですね。「見える方の目は暗闇に…」とありますが、それは目にしない方が良いほどに世の中は汚れてしまっているということを言いたいのかなと思っています。

8. Tomorrow Never Knows

これまた前曲とは打って変わってアップテンポのフォークソングです。ほのぼのと吞気な感じでリラックス感満載です。

演奏にはストリングスも起用されていますので「WESTERN STARS」に収録されていても違和感のない曲だなと思いました。

あと、佐野元春さんのアルバム「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日に」収録されている「ジュジュ」に似た雰囲気があり、こういった曲調はある種スタンダードなのかなと思っています。

歌詞は、コンパクトに前向きです。明日のことは誰にも分らないが、ただ明日に期待しているだけではより良い明日は訪れないといった内容です。

9. Life Itself

ミステリアスな雰囲気のあるミドルテンポのロックです。シンプルなサウンドでこれといった特徴的なものは感じられませんでした。

しかしこの曲もメロディーは立っているので聴きづらいということはありませんね。

歌詞はミステリアスでよく分からないですね。愛する人に裏切られたのでしょうか? 欲望は時に人を変えてしまう…しかし変わることのない愛する気持ち。

10. Kingdom of Days

歌い出しからとてもメロディアスで上品なポップソングです。この曲も苦手な人は少ないんじゃないかなと思います。この曲も本作の作風を象徴しているグッドソングです。

歌詞は甘いラブソングです。国家や世間は関係ない、二人だけの世界を生きて行こうといった内容です。

11. Surprise, Surprise

この曲も前曲同様にとてもメロディアスです。しかし前曲と比べてこの曲の方がロックンロール感があります。というかロックンロールです。

ボス氏の肩の力が抜けた歌い方、一部おどけた感じの歌い方もリラックス効果を与えてくれて良い感じです。

歌詞は、サプライズを用意して愛する人の誕生日を祝う歌です。ま、とりあえず詩は気にしなくて良いんじゃないでしょうか?

12. The Last Carnival

基本的に弾き語りのフォークソングです。時間は3分くらいありますが、どこか小品の様な可愛らしさがあるので嫌いじゃないですね。

本来この曲が最終曲だと思います。「ラストカーニバル」、素敵なアルバムの締めくくりとしては良いのではないでしょうか?

歌詞は、愛する人の死を悼む女性の歌です。このアルバム、まるでショーの終わりを告げている様で、祭りの後のさみしさを感じますが悪くない終わり方だと思いますね。

13. The Wrestler (ボーナストラック)

この曲はミッキー・ローク主演の映画「ザ・レスラー」の主題歌として提供された曲で、第66回ゴールデングローブ賞・オリジナル歌曲賞を受賞しています。

前曲同様、基本的に弾き語りのフォークソングです。しかしこの曲はメロディーがイマイチ明確でなく地味で、ボス氏の作風の中では一番苦手なやーつです。

まあでも映画の主題歌になった上にゴールデングローブ賞までも受賞しているくらいなので、きっと凄い曲なんだろうなとは思いますが…

歌詞は、映画に沿った内容で体がボロボロになっても闘い続ける男の悲哀を描いています。

彼は言います。”様々な悪い状況のもの”を目にしたことがあるのなら、きっと俺のことも見たことがあるだろうよ、と。

以上、ブルース・スプリングスティーン『WORKING ON A DREAM』私的全曲レビューでした。ありがとうございました。

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