ブルース・スプリングスティーン

ブルース・スプリングスティーン『WRECKING BALL』私的全曲レビュー

今回の記事はブルース・スプリングスティーンが2012年に発表したアルバム「WRECKING BALL」についてです。本作は2009年「WORKING ON A DREAM」の3年後に発表された作品です。


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WRECKING BALL  全体的な感想

『WRECKING BALL』2012年発表

前作の「WORKING ON A DREAM」はアルバムジャケットからしてカラフルで、内容もとてもキラキラした宝石箱の様なポップアルバムでした。

ですので本作はきっと骨太なロックアルバムになるのかと思いきや、それほどでもありませんでした。サウンド的にはプロデューサーは異なるものの2002年に発表した「THE RISING」に通じるものを感じました。

ストリングスや女性コーラスや多用し、他にも何曲かでサンプリングを用いたり、アイリランド音楽やヒップホップへの接近など、実験的な側面も見られます。

また本作では、次作の「HIGH HOPES」で大々的に競演する事になるギタリストのトム・モレロ氏が数曲プレイしています。

もしかしたら本作でやり残した事、やり切れなかった事でもあったのか? もしくは、本作で得た良い感触を次作でも再現したいと考えたのかな?と勝手に想像しています。

そういった意味では本作のわずか2年後に発表された「HIGH HOPES」にて、トム・モレロ氏・ストリングス・アイリッシュ音楽が再びフューチャーされたのは自然な流れだったのかも知れません。

個人的なおすすめ曲は「Wrecking Ball」と、本作用の書き下ろしの新曲ではありませんが「Land Of Hope And Dreams」ですね。

本作はべつに嫌いなアルバムではありませんが、意外と”どハマり”する曲は少なかったですね。

WRECKING BALL  各曲感想

1. We Take Care Of Our Own

先行シングルにもなった曲で、様々な楽器に美しいコーラスとカラフルなサウンドが印象的です。ただサビなど盛り上がりがなく全体的に単調な感じなのは少々残念な気がします。惜しいですね。

歌詞は、タイトルの訳「俺たちは自分たちで支え合う」という一見頼もしい宣言の様にも取れますが、これは米国に対する皮肉の様です。もはや国は当てに出来ないという米国の厳しい現実の裏返しなのだろうと思いました。

2. Easy Money

アイリッシュ感というかトラディショナルな感じが印象的な力強いロックです。ボス氏のボーカルは前曲とは異なり凄みに溢れています。賑やかなコーラスとはとても対照的です。

歌詞は、38口径のピストルを持って彼女とあぶく銭を探すために町へ繰り出すというストーリーです。彼らは町で一体何をするつもりなのでしょうか?

何やら不穏なものを感じますが、快活な女性コーラスでエンディングを迎えるのもあり、ちょっとした悪だくみを考えている程度だろうと想像しています。

3. Shackled And Drawn

前曲2.と、よく似たテイストの曲です。こういうブツ切り感のない流れは個人的に好きですね。

歌詞の主人公は長いこと失業中で過去を回想している様です。「若いの、持って行くんだ!」「大の男に仕事をさせろ」と歌っているので、老いてはいるものの完全には諦めていない、希望は捨てていない様です。

4. Jack Of All Trades

基本的にピアノメインのしっとりとしたメロディアスなバラッドですが、間奏に哀愁のトランペット、エンディングではトランペットに情熱的なトム・モレロ氏のエレキが絡んで来てとてもいい感じです。

歌詞の主人公は「俺は何でも屋、大丈夫、何とかやっていける」と言っていますが、それはあくまでも自分を奮い立たせるために言っている様な気がしました。

現状はとても厳しい状況だが、その気になれば何だって出来る、何とかなるさと。

5. Death To My Hometown

アイリッシュ感の強いパワフルなロック。詩はシリアスですが曲や演奏、女性コーラスもあり賑やかです。

ただボス氏のボーカルは歌詞の通り、苦虫を噛み潰した様な、憤まんやるかたない気持ちが如実に表れているなと感じました。

歌詞は名曲「My Hometown」を思い出させます。あの曲では工場閉鎖のシーンがありましたが、この曲では「Death to」が付いている通り、より深刻な印象を受けます。金にものを言わせて開発しまくって、ふと気付いた時には我が町は死んでいたという。

6. This Depression

幻想的なバラッドです。間奏でトム・モレロ氏?のギターと透明感のある女性コーラスと絡まりかなり良い感じです。初聴の時は即スキップしましたが改めて聴いてみると中々良いです。

歌詞は、ここまでの曲の主人公が同一人物だとすると、これまで強気一辺倒だったが闘い疲れたのか?この曲では一転して弱気になり、かなり落ち込んでいます。

いくら気丈に振る舞っていても不況という現実を打ち負かすのは難しく、打ちひしがれている様です。「お願い、おまえの思いやりが必要」と。

7. Wrecking Ball

アルバムのタイトルチューン。ホーンセクションやコーラスが大活躍の痛快でパワフルなロックです。

歌詞は、取り壊しの決まったジャイアンツ・スタジアムに捧げたものだそうです。レッキングボールとはその解体用の鉄球のこと。

たとえ取り壊されて残ったものは駐車場だけだとしても、くよくよすることはない、思い出は消えない、怒りを持ち続けるんだと鼓舞しています。

訳詞の読み様によっては、ジャイアンツ・スタジアムという「建造物の気持ち」にも読めます。まあ、建物が心を持っているとは思いませんが。

8. You’ve Got It

スライドギターとハンドクラップが印象的なミドルテンポのブルージーなロックです。オーソドックスなアレンジで何故かほっとします。

歌詞は一言で言えばラブソングです。彼女は誰も持っていない物を持っており、それを分けて欲しいと懇願しています。

では彼女は何を持っているのかと言えば、やはり愛とか思いやりでしょうか?

実際、これは大抵の人が持っているものだと思いますが、ひとたび好きになってしまうとその人が特別な人に見えるのは仕方のない事ですね。

9. Rocky Ground

ボス氏流ヒップホップでしょうか?黒人男性によるパワフルなシャウトのサンプリングや美しい女性コーラス、後半には女性のラップにトム・モレロ氏のギターが聴けます。

6.同様、初聴時はボス氏らしくなく単調で退屈な感じがしましたが、聴き直すとこれもかなり良いです。

歌詞は、宗教的・神話的な内容でちょっと私には難しいです。文化の違いでしょうか?「新しい1日が始まる」と、最終的に前向きなのは理解できますがイマイチピンと来ませんでした。

10. Land Of Hope And Dreams

この曲の存在はライブDVDの「LIVE IN NEW YORK CITY」、「LIVE IN BARCELONA」で知っていましたので、やっとスタジオ録音してくれたかとホッとしたのを覚えています。

いずれも2000年代前半でしたので「MAGIC」や「WORKING ON A DREAM」に収録されなかった時は、あーもうやらないのかな?と薄々諦めていましたのでとてもうれしかったですね。

ライブ作品と改めて比較はしていませんが、基本的にライブ作品のそれそのまんまという気がします。

歌詞は善人から悪人まで全ての立場の人間、みんな一緒の汽車に乗って夢と希望の地へ向かおうぜ!というサウンド同様に前向き全開の歌詞です。

11. We Are Alive

不気味に始まるフォークロックですが、バンジョー等の弦楽器・口笛・ハンドクラップ・ホーン・ストリングスと、早々に軽快で賑やかな展開になりとても良いです。

本来はこの曲がアルバムの最終曲だと思いますが、13.同様、アルバムを明るく締めたかったのかなと想像しています。

歌詞は、死者の叫びの様です。肉体は朽ちても精神は死なない。自分達は土の中で今も生きている。体中を蛆虫が這っているがね、と。生々しいというかユニークな歌詞です。

死者のことを忘れてはならないというボス氏流のメッセージですね。全体的にはシリアス過ぎず痛快過ぎず、詩・曲・演奏と絶妙なバランスが取れているなと感じました。

12. Swallowed Up (ボーナストラック)

メロディアスですが何とも地味で暗いフォークソングです。ボーナストラックですが私的にはあまりありがたみを感じられませんでした。

歌詞も9.と同様、宗教的・神話的な内容で私には難しいですね。何か悪い事をして罰を与えられるも、その許しは得られていない様です。

13. American Land (ボーナストラック)

アイルランド感全開のやり過ぎロックンロールです。私がこの曲を知ったのはライブ作品の「London Calling: Live in Hyde Park」でした。

たしか後半のクライマックパートで演奏されていて、ほぼほぼお祭り騒ぎだったことを覚えています。

歌詞は、多民族国家アメリカの光と影について歌っていますが、かなりユーモアたっぷりの表現になっています。

アメリカという国に住みさえすれば、「蛇口をひねればビールが一晩中流れてくるらしい」、「子供たちよ、木にはお菓子がなっている」等々。

しかし、憧れと希望を持ってアメリカへ渡ってはみたものの、現実は骨と皮に痩せ細るまで働いて死んでいったという…「Born In The USA」的なものも感じます。

以上、ブルース・スプリングスティーン『WRECKING BALL』私的全曲レビューでした。ありがとうございました。

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