佐野元春

佐野元春おすすめアルバム『BLOOD MOON』2015【私的全曲レビュー】

今回の記事は佐野元春さんのアルバム「BLOOD MOON」についてです。本作は2013年の「ZOOEY」からわずか2年後に発表された作品です。また本作は80年代的な雰囲気もあり往年のファンも満足出来る作品だと思います。

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BLOOD MOON  全体的な感想

BLOOD MOON』2015年発表

前作の「ZOOEY」が「COYOTE」以来の6年ぶりのオリジナルアルバムで、しかも快心の作品でしたので、2年という比較的短いインターバルで新作がリリースされるとの一報を聞いた時は、内容的にそんなに期待はしていませんでした。

しかしいざ「BLOOD MOON」を聴いてみると快心作「ZOOEY」を軽々と越える傑作であることに感嘆しました。

2015年はデビュー35周年でしたが、佐野さんの長いキャリアを通しても新たな代表作と言って何ら差し支えのないクオリティーに仕上がっています。ジャケットデザインも秀逸です。

私は佐野さんの全盛期は、80年代中盤から後半に差し掛かるカフェ・ボヘミア期だと勝手に思っています。

この「BLOOD MOON」はあの頃のオマージュともとれる作品がいくつか収められており、往年のファンがニヤリとすること請け合いです。

また、YouTubeで公開された元春TVショー#001によると本作のデモ曲はなんと83曲もあったというから驚きです。

あと、長らくファンが憂いでいた佐野さんのボーカルも「ZOOEY」以上の安定感や力強さがあるのも喜ばしい点です。これはライブでも確認されています。

佐野さんのボーカルがキャリアの終盤で回復することを一体誰が予想したでしょうか?

治療なのかトレーニングなのかは存じませんが、大変な努力を続けてこられて来たのだろうと想像しています。

BLOOD MOON  各曲感想

1. 境界線

これぞ、ザ・佐野元春といった曲です。代表曲の「SOMEDAY」、「YOUNG BLOODS」、「約束の橋」の系譜に位置づけても何ら違和感のない曲だと思います。

なにしろ「約束の橋」の発表が1989年ですから、もう二度とこの手の曲にはお目に掛かれないんだろうなと半ば諦めていたので初めて聴いた時は衝撃的にうれしかったです。

その曲調は簡単に言ってしまえば、アレンジが「YOUNG BLOODS」、全体の雰囲気は「約束の橋」といったところでしょうか。

ホーンはないものの、ピアノとストリングスにオルガンと正に元春サウンドです。また、大サビもあり、ボーカルも「夢見てるぅー、うぅっ」とサービス満点でお気に入りの曲です。

2. 紅い月

アルバムタイトルチューンのロックロール。顔が優しくなった(歳をとって丸くなった)、忘れる事だけはとても上手になった(加齢による物忘れ)等、歌詞から察するに古くからのファンに宛てた手紙の様な内容です。

また、「君が夢に見てた ぬくもりは誰かの為のお伽話だった」の一節は特に印象に残りました。どうせなら「ぬくもり」ではなく「まごころ」でも良かったかなとも思います。

しかしそれだと、やり過ぎ感、「SOMEDAY」感が出過ぎのベタな感じになるので、あえて「ぬくもり」にしたのかなと想像しています。

あと、最後まで「全てが壊れてしまった」で通したのは何故なのかなと少々疑問です。絶望的な感じが…しかし決して暗い曲ではありません。

アレンジも秀逸でギターサウンドがとても心地よいです。特に「キュイキュイ」というフレーズが堪りません。

こういったシリアス&ユーモラスなバランス感覚はさすが佐野さんといった感じの名曲です。

3. 本当の彼女

フォークスタイルのラブソング。ちょっと苦手なタイプの曲ですが、歌詞がとても具体的で説得力があり愛情が溢れているので、つい最後まで聴いてしまいます。

歌詞に登場する女性は「スーパーナチュラルウーマンかジャスミンガール」かなと想像していますが、どちらかと言えば私的には「ジャスミンガール」の方が近い気がします。

「スーパーナチュラルウーマン」は、たくましい女性のイメージなんでちょっとこの曲の主人公の女性のイメージとは違うかなと。

まあでも、スーパーナチュラルウーマン=ジャスミンガールかも知れませんが。人はそんなに一面的ではないと思いますので。

4. バイ・ザ・シー

アコースティックで爽やかなポップチューン。軽快なパーカッションといい80年代後半の自身のラジオ番組の企画で誕生したブルーベルズを思い起こさせます。

歌詩の内容も「本気を出すのはまだ先だ」などと大らかでリラックス感がとても心地良いです。

しかし「美しい経験と眩しい永遠」のどちらが欲しいのか?(どちらも欲しいのか?)との問いかけも忘れてはいません。

5. 優しい闇

疾走感あふれるロックンロール。「人はあまりに傲慢だ。帰り道をなくしているのも知らずに」。

特にこの一節には当時、安保法成立で大騒ぎしていたこともありこの曲には少なからず政治的なものを感じました。

私は基本的に安保法は賛成派ですが、ひとたび踏み出してしまったら、帰り道をなくす=後戻り出来ない という危惧はありますね。

あと、佐野さんのボーカルは力の入ったライブ感の強いものとなっている気がします。

6. 新世界の夜

シリアスなスローソング。これまた佐野さんの詩人としての才能が炸裂している名曲です。

ただ、この曲の流れは過去作の「経験の唄」の様に起伏がないので少々物足りなさも感じますが、それを補って余りあるほどに歌詞が素晴らしいです。

全体の雰囲気としては「SHAME(君を汚したのは誰)」と「マンハッタンブリッジにたたずんで」が上手に融合したタイトル通りの幻想的な作品という感じでしょうか。ピアノが美しくとても印象的です。

7. 私の太陽

リズムが印象的ですが私にはちょっと難しい感じの曲です。名曲「99BLUES」を思わせるアフリカンなジャングルビートとアシットジャズを融合させて、ロックンロールとしてまとめた様な感じかな?とずっと思っていました。

私的にこの曲の独特なリズム感は、1990年前後に取り組んでいた打楽器の大胆な導入、例えば、「ハッピーエンド」、ビートルズのカバ-の「レヴォリューション(ライブ)」や渡辺美里さんと共演した「ホーム・プラネット」的なものも感じました。

しかし元春TVショー#001によると、元々はセッション形式のインスト曲として録音され、メンバーの皆さんは後日最終的にこの様に仕上がったことを知ったそうです。

同番組での渡辺シュンスケさん(key.)のコメントによると「ピアノソロを弾いていますが、佐野さんから弾いてと言われた記憶が定かではない」的なことを仰っていました。

8. いつかの君

シンプルで真っ直ぐなロックンロール。80年代のアメリカンハードロック的な曲。今までありそうで実はなかったタイプの作品で新鮮です。

過去にもあった様な気がしますが、おそらくその記憶は浜田省吾さんの作品でしょうね。

9. 誰かの神

サイケデリックなロック。佐野さんのシニカルな歌詞が堪りません。佐野さんの詩作能力が炸裂している名曲です。

ちなみにこの曲も7.同様、元々はセッション形式のインスト曲だったそうです。で、完成したこの曲を聴いたところ、佐野さんの歌が付いていたのでメンバーの皆さんは大変驚いたそうです。

しっかしその歌の完成度は後付けとは思えないクオリティーですね。むしろ詩が先なんじゃないかと思えるほどです。

10. キャビアとキャピタリズム

パワフルなスカビート・シャープなギター・野太いボーカルが印象的なサイケなファンクロック。

こちらは9.とは逆に、2012年に発表した詩「俺のキャビアとキャピタリズム  故・吉本隆明氏に捧ぐ」にメロディーを付け編曲したものの様ですが、その完成度はすこぶる高いですね。

歌詞については、この曲の詩と上記の詩を読み比べることをおすすめします。どちらもクールでしびれます。

あと、佐野さんのボーカルもとても迫力があります。これが苦手の方も居られるようですが私は好きですね。

曲中の「~都合のせいさ」の背後の「せいさぁ!」と「~聞くもんか」の背後の「もんかぁ!」では、ド迫力ボーカルだけでなく爽快な声も聴かせてくれます。

11. 空港待合室

ファンキーなロックンロール。冒頭に登場する「炎の人」は誰のことか?と一部で憶測を呼びましたが消防士説が有力な様です。

空港:NY、NY:9.11、炎の人:消防士、佐野さん:NYC1983~1984と考えると符合します。

うーん、スキップするほどではないですが、あんまり好みじゃないかなこの曲は。

12. 東京スカイライン

アルバムの最後を飾るにふさわしい名曲です。この曲を聴くと夏の日の夕暮れ時が思い浮かびます。

「崩れてゆく文明」、「望みを失くした君」、「嘘のような真実」とシリアスなフレーズが続きますが、全体を通してはとてもやわらかなオーラに包まれています。

また、「ポケットの奥を握って、何度さよならをしただろう」には感嘆しました。

さよならはしたくなかったという思いを「ポケットの奥を握って」の一言で表現してしまう才能。さすがです。

「グッドバイからはじめよう」の「~僕の手はポケットの中なのに」を思い出した人も多いのではないでしょうか?

サウンドはマンドリンが特徴的でエンディングの演奏もずーと聴いていたいと思うほどに美しいです。

以上、佐野元春おすすめアルバム『BLOOD MOON』2015【私的全曲レビュー】でした。ありがとうございました。

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