佐野元春

佐野元春おすすめアルバム『Stones and Eggs』1999【私的全曲レビュー】

今回の記事は佐野元春さんのアルバム「Stones and Eggs」についてです。本作は1997年に発表したアルバム「THE BARN」から1年半強という比較的短いインターバルで発表された作品です。


Stones and Eggs

繰り返しになりますが「THE BARN」から1年半強での唐突?なリリースには、当時アルバム「TIME OUT!」の時にも感じた何やら大人の事情的なものを感じました。

そしてその後、オリジナルアルバムとしては本作を最後に佐野さんは長年連れ添ってきたEPIC SONYから独立する事になります。

余談ですが当時TVKの音楽番組、番組名は忘れましたがお客さんが入った公開番組に佐野さんがゲスト出演した際に、EPIC所属?のミュージシャンのMCの方が「EPICは佐野さん放したらダメですよぉ、佐野さんはEPICの宝なんだから!」って言っていたのをよく覚えています。

ちなみに佐野さんには、番組中ずっと機嫌悪そうなオーラを感じましたね。

しかしEPIC独立後もEPIC25周年イベントに大トリとして出演したり、各アルバムのアニバーサリー盤をリリースするなど現在も良好な関係は保っていらっしゃる様です。

Stones and Eggs 全体的な感想

『Stones and Eggs』1999年発表

当時佐野さんのインタビューで、本作は予算の都合でプライベートスタジオで制作し、打ち込みや大半の演奏は自分自身で行ったと聞いた覚えがあります。

しかし何故このアルバムを制作するに至ったのかなどのコンセプト的な話については記憶にないですね。

デビュー20周年目前というのは、アルバムコンセプトとは違う話だし…契約上創らざるを得なかったのかな、この期間に何枚リリースみたいな契約で。

本作のリリースにあたっては、そんな具合で20周年目前の割には景気の良さや覇気があまり感じられず、そういったプラシーボ効果的なものあってか、アルバム全体としては何だかこじんまりとした印象があります。

しかし個々の曲はどれもクオリティが高く、最少人数による制作であることを鑑みれば、更にまだまだ伸び代が残っていそうな、高いポテンシャルを持っている様にも思えてきます。

そういった意味ではCOYOTE BANDとの再レコーディングは無理にしても、アルバム全曲ライブあたりは期待したくなります。

また本作はバラエティに富んでいる分、アルバムとしての統一感には欠けますが、個々の曲からは佐野さんの20年のキャリアの変遷が垣間見えるので、いわば総括的なアルバムと言えるかも知れません。

Stones and Eggs 各曲感想

1. GO4

力強い女性コーラスで幕を上げ、ホーンなど華やかさのあるヒップホップ・ラップ寄りの曲です。

”寄り”というのは、それほどヒップホップ・ラップ然とはしていないからです。

ラップというよりポエトリーリーディングに近い感じもあり、私的にはカセットブック「ELECTRIC GARDEN」の「N.Y.C. 1983〜1984」あたりの作品が思い浮かびました。

歌詞には「さよならレヴォリューション」や「輝き続けるフリーダム」など過去作品のフレーズが盛り込まれ、「誰かの引用、あてのない信用、真のリスペクトそれが重要」と意味深なフレーズもあり、デビュー20周年を迎えるにあたってこれまでの活動を総括している様に感じました。

2. C’mon

適度なスピード感のあるロックです。この曲は何と言ってもボーカルがユニークです。

これまでの作品でもファルセットを使ったダブルボーカルは何ら珍しくありませんでしたが、本曲ではほぼ全編に渡ってファルセットを使ったダブルボーカルとなっています。

音量も五分五分といった感じですので、ダブルボーカルというよりツインボーカルと言っても良いかも知れません。

歌詞は現実世界を悲観しながらも「よくあることさ」「いいさ、それでいいさ」と諦めにも似た前向きさが印象的です。

3. 驚くに値しない

1.と似たテイストの曲ですが、こちらの方がラップマナーに沿っています。佐野さんの長いキャリアの中でも意外と少ないラップ然としたラップ曲です。

歌詞は観念的でよく分からないですが、「それが現実だとしてもNo surprise at all」と前曲にも通じるものを感じました。

4. 君を失いそうさ

ビートルズぽさを感じられるミドルテンポのポップソングです。この曲が好きな人は結構多くいて、私もその一人です。

この曲の良さは何と言ってもメロディーの滑らかさに尽きると思います。だからと言って必ずしも明るい曲ではなく、むしろ暗めな曲なのですが聴き手を惹き付ける魅力に溢れています。

歌詞はよく分かりませんが、タイトル通り悲観している事に間違いは無さそうです。

5. メッセージ

本作の代表曲と言ってもいい極上のロックンロールです。5曲目にしてようやく登場した快活な曲で、この1曲でそれまでの悲観さを吹き飛ばしてくれます。

初聴の時は、その気になればこういう曲も創れるんだなぁととても感激したのを覚えています。

曲調は正に初期の頃のいわゆる「元春ロックンロール」そのものと言って良いでしょう。

初期作は80年代前半という時代背景、ロックのビートに日本語をいかにして自然に乗せるかという挑戦をされていたかと思います。

しかしその数年後にはそういった日本語と英単語やカタカナの組合せを良しとしない、英単語やカタカナがあちこちに混ざっていると何だかよく分からない、日本語の歌なのだからあくまでも全編日本語であるべき、といった声が大勢を占める様になりました。

話がそれましたが、本曲はそれらを踏まえつつとても説得力のある歌詞になっています。

「人生はいつもミステリー、偶然のヒストリー」あたりは正にそれです。

一見何でもないフレーズ様に見えますが、ありそうでない・出てきそうで中々出て来ないフレーズであると思っています。

その他についても日本語を主としたシャープなフレーズが全編に溢れています。そしてサビは英文という思い切った感じも非常に良いです。

言葉の威力とビートが見事に調和しており、初期の元春ロックンロールが20年近くの時を経て完成したという印象で100点の出来だと思っています。

ただ、サックスがフューチャーされていたら120点だっただけに少しだけ惜しい感じはします。

6. だいじょうぶ、と彼女は言った

シングルにもなったミドルテンポのポップソングです。ジョン・レノンやオールディーズを思わせる品の良い曲です。

4.を”暗”とすれば本曲は”明”でしょうか?

明けない夜はない、時間が全てを解決してくれるとでも言う様に、傷ついた彼女を優しく勇気づけています。

タイトルがユニークでこれはこれで素敵ですが、どうせなら○○ガールにしちゃっても良かったかな?という気がしてくるほどに感じの良い前向きな曲です。

7. エンジェル・フライ

比較的ストレートなロックです。キーボートやサイケ感のあるエレキが印象的でエンディングでは結構長めの演奏が聴けます。

そういった意味では本作で一番バンド感の強い曲だと思います。

歌詞は「一緒にランチ食べよう」という軽めな印象があったり、そもそもそんなに好きな曲ではなかったので、個人的にはあまりほかの言葉が入ってきませんでした。

しかし改めて歌詞カードを読むと中々シリアスです。

学校や会社などの社会におけるイジメ、90年代後半から急激に加速して行くネット社会、そしてますます孤独化していく若者へのメッセージ・声掛けとしての「一緒にランチ食べよう」の様です。

うーん、やっぱりランチって言葉が軽く感じたのかなぁ。まあ、私的には”ランチ”ではなく”お昼”なんでね。

8. 石と卵

本作のタイトル曲。どこかジャズっぽさも感じられるバラッドです。初聴の時、佐野さんのファルセットに驚かされた人は多いのではないでしょうか?

全編ファルセットで歌っていますが、何度か聴くと違和感はなくなりました。観念的な歌詞、幻想的な曲調にマッチしていると思います。

ちなみに本曲は、後のベスト盤「GRASS」にシンガーのボニー・ピンクさんをデュエットに迎え、新録音・新ミックスにて収録されるなど、佐野さんにとって思い入れの強い曲の様です。

9. シーズンズ

元々はお笑いコンビ猿岩石に提供された「昨日までの君を抱きしめて」という曲のセルフカバーになります。

猿岩石ver.は聴いたことがないのでどんな感じ・アレンジだったのかは分かりません。

本曲の感想としては提供曲だけあってクセのない、メロディの聴きやすいフォークロックで、歌詞は青春の1ページ的な内容になっています。

そういった意味ではがっつりヘビロテで聴くというよりBGM向きですね。アレンジももう少し…ちょっとあっさりし過ぎな感じがします。

ポテンシャルの高い曲だけにストリングスかホーンでもフューチャーされていたらかなり印象は違ったものになっていたかも知れません。

10. GO4 Impact

1.のリミックスver.でそのリミックスはDragon Ashの降谷建志氏に依頼し、1.でみられたゴージャスな感じが、サイケでエッジの効いた曲に生まれ変わりました。

私的には当時から1.のオリジナルver.よりもこの降谷氏ver.の方が好きですね。

1.と本曲には世代感を感じますが、むしろそういった刺激を佐野さんが自ら求めて行ったことでシャープな余韻を残してアルバムを終えることが出来ていると思います。

もし本曲が無く、前曲が最終曲でしたら後味はかなり違ったものになっていた様な気がします。

以上、佐野元春おすすめアルバム『Stones and Eggs』1999【私的全曲レビュー】でした。ありがとうございました。

Stones and Eggs