佐野元春

佐野元春おすすめアルバム『THE BARN』1997【私的全曲レビュー】

今回の記事は佐野元春さんのアルバム「THE BARN」についてです。本作は1996年のアルバム「FRUITS」の発表からわずか1年半足らずで、再度ホーボーキングバンドのメンバーと共に創り上げた作品です。

しかし本作の制作過程は通常とは異なり、ホーボーキングバンドのメンバーと共に米国ウッドストックへと渡り、約1ヶ月間にも及ぶレコーディング合宿を敢行したという意欲作です。

そういった意味では本作が正式なホーボーキングバンドのデビュー作と言っても良いかも知れません。

その後若干のメンバーの交代はあるものの、佐野さんのセルフカバーアルバムや今や毎年恒例となったビルボードライブ等々、現在においてもザ・コヨーテバンドミュージックとはひと味異なる、もう一つの一面を支えてくれています。

また、共同プロデューサーとしてジョン・サイモン氏を迎え、更には、ザ・バンドのガース・ハドソン氏やラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャン氏らが参加するなど、その辺りからも本作制作への強い意欲が感じられます。


THE BARN

THE BARN  全体的な感想

THE BARN』1997年発表

本作は初期の頃からの佐野さんのファンの間でもその評価が分かれる作品で、私のイメージでは、賛が3割・否が7割の印象です。

ちなみに私の本作に対するスタンスは?というと、ご多分にもれず”否”の立場です。

実はこういったファンの反応は名作アルバム「VISITORS」でも見られた反応です。

しかし「VISITORS」には、その良さは理解出来ないけれど真新しい音楽であることは分かるといった反応があったかと思います。

本作はそういった真新しさとは真逆の、いわばルーツミュージックへの探究?が狙いだったことが、言葉は悪いですが古臭さをファンに与え「VISITORS」とは違った反応につながったものと思っています。

また、当時佐野さんは40代中盤に差し掛かっていた年齢でした。

個人的な経験上40歳を超えたあたりから、若き日の良き思い出や悪しき思い出がふと脳裏をよぎることも多くなりました。

もちろん断定は出来ませんが佐野さんも当時そういった年齢でしたので、ミュージシャンとして若き日に良き影響を与えてくれた音楽たちに敬意を表したいという衝動に駆られたのかな?と現在では想像しています。

私自身意識はしていませんが、私がこういったブログ発信をしたいと思い、実践している背景には似たような気持ちが私の心のどこかにあるのでしょうね。

あいにく私はそれを音楽で表現できないので、本ブログにて敬意を表させて頂いているということですね。

話を元に戻しますと、なにゆえファンの間で本作に対し”否”の声が多いのかというと、端的に言えば楽曲がキャッチーでない・ボーカルに力強さが無い、この2点に尽きるのだろうと思います。

私もリリース当時は、どこがどう凄いのかよく分からず退屈で、佐野さんの歌声も元気さが無く、最初に数回聴いただけでその後はずっと棚にしまっていました。

そしてこの度この記事を書くにあたって、それこそ20年ぶりくらいにじっくりと聴かせて頂きました。

その結果としては、当時の私の印象を完全に覆すほどではないものの、あれから20年もの時が経ち、私も歳をとって気持ちに余裕が生まれたのかアレルギー的な拒否反応は生じませんでしたね。

何しろ私は当時アラサ―というまだまだ血気盛んな年頃で、何か掻き立てられる様な、血が騒ぐものを欲していましたからね。

さて、本作はフォークやブルースなどをベースにした全体的に素朴で穏やかなムードに包まれています。

歌詞の世界観や演奏の編成人数は全く異なりますが、アコースティックを基本にしながらも全体的に暗くなり過ぎない様に配慮したその曲調やサウンドは、ブルース・スプリングスティーンが2005年に発表したアルバム「DEVILS & DUST」に近いものを感じました。

また当時は、本作における佐野さんのボーカル力・声が出ていないと随分とやり玉に挙げられていたりもしました。

しかし改めて聴いてみると「DEVILS & DUST」のボス氏のファルセットとは言いませんが、キーをかなり高めに設定して自覚的に歌唱されていることがわかります。

もしかしたら佐野さんが敬愛して止まないボブ・ディラン氏あるいは二ール・ヤング氏のボーカルスタイルを意識していたのかも知れません。

ちなみに本作は、2019年にリリース20周年記念としてアニバーサリー盤がリリースされるなど、今尚、一部のファンに非常に強く支持されている作品でもあることも付け加えておきます。

THE BARN  各曲感想

1. 逃亡アルマジロのテーマ

ホーボーキングバンドによるインスト曲です。佐野さんのアルバムで本格的なインスト曲から始まるアルバムは2020年現在本作のみ?です。

合宿形式のレコーディングセッションだったとのことですが、そのあたりが伺えるアルバムの幕開けです。

曲調としてはオープニングにもかかわらず何やら怪しげで気だるく、これから始まる「何か」を予感させる、意味深さを感じさせる曲です。

聴き手であるファンに何がしかの覚悟を問うているのかも知れません。

2. ヤング・フォーエバー

シンプルでストレートなロックンロールです。現在においてもライブで披露されることの多い人気曲です。

私は35周年ライブあたりからこの曲が好きになりましたね。DVDなどを中心に長らく数々のライブ演奏を観てきましたが、ずっとピンと来ませんでした。

やはり私はボーカルが強目なのが好みの様です。そういった意味では近年のボーカルのパワーアップは喜ばしい限りです。

本作の中での位置付けは、他の曲との毛色の違いからサービス曲的な意味合いを感じます。それこそアルバム「VISITORS」でいうところの「TONIGHT」の様な位置付けでしょうか?

しかしあの曲は曲調こそポップロックではあるものの、詩世界がニューヨーク感にあふれていました。

本曲にはそういったウッドストック感的なものは感じられないので、アルバム中で結構浮いた存在になっているのが気になります。

歌詞は、ヤングフォーエバー若さよ永遠に…と前向きなですが、必ずしも若者に向けたメッセージではなさそうです。

「全体的な感想」に書きましたが、佐野さんは創作当時に自身の年齢というものを意識していたのかも知れません。

あと、「マグネシウムの街…アルミニウムの夢…」、こういうよく分からない語呂合わせ的なフレーズは苦手ですね。

ちなみに「メッセージ」の「人生はいつもミステリー、偶然のヒストリー」は大好きです。

3. 7日じゃたりない

ミドルテンポのポップソングです。オルガンが特に印象に残りました。間奏ではアコーディオンやピアノほかバンド全体のアンサンブルを聴かせてくれます。

そういった意味では本曲以降の作風を鑑みても、聴き手にとっては本曲が本当の意味での1曲目と言えるのかも知れません。

無論、創り手にとってはあくまでもこの曲は3曲目だ!というのでしょうけども。

歌詞はラブソングで、7日じゃ足りないと押えきれない男の子の気持ちを歌っている様です。

余談ですが、私が”男の子”という言葉を使ったのは、歌詞中の「あの娘のママが言うことはいつも正しい」というフレーズに名曲「ナイトライフ」の情景が垣間見えたからです。

4. マナサス

ほどほどのスピード感に抑えたフォークロックです。パーカッションやオルガンが印象的で、特にパーカッションは終始鳴っているので心地良い開放感を与えてくれます。

クセの無い曲なので本作の中でもリラックスして素直に聴ける曲だと思います。歌詞は観念的でよく分からなかったですね。

5. ヘイ・ラ・ラ

ミドルテンポのポップソングです。憂いを感じさせる魅惑的なエレキのフレーズから始まります。

全編に渡ってのこのフレーズ・エレキが支えていてムーディーで格好良く、本作お気に入りの一曲です。

タイトルだけを見ると陽気さが伺えますが、どちらかと言えばブルーな曲です。

サビで「ヘイ・ラ・ラ」と歌ってはいますが、主人公は「ヘイ・ラ・ラ」と、何とか前向きになろうとして少々無理をしている感じで、そこに主人公の葛藤が見えた気がします。

6. 風の手のひらの上

本作の代表曲と言って良いフォークソングです。フォークと言っても土着的ではなく、ほのぼのとした穏やかなサウンドの感じの良い曲です。

本曲はベスト盤などに収録されることもあり、佐野さんの長いキャリア、その中期における代表曲と言って良いでしょう。

歌詞は「答えはいつでも形を変えてそこにある、風の手のひらの上」とどこかで聞いたことのあるフレーズです。

そう、いろんな方が指摘されている様にボブ・ディラン氏の名曲「風に吹かれて」です。

本曲「風の手のひらの上」はそのアンサーソングと言えるでしょう。佐野さんの歌い方もディランぽい歌い方をしている様に聴こえます。

「風に吹かれて」では「答えは風に吹かれている」と、”風”という、掴もうとしても掴みきれないやるせなさに溢れていました。

しかし佐野さんは「風の手のひらの上」と歌っています。

手を広げて差し出してごらん、いつだって「風の手のひらの上」にある、そう、答えはいつだって手のひらの上にあるんだよ、と。

そして「すべてが何もかもうまくゆく、いつかきっと」と、そっと勇気づけてくれています。

さすが佐野さん、あのディラン氏を見事に論破していますね。もちろんこれは冗談です。はい。

7. ドクター

シングルカットされた曲です。テンポと小気味の良さが特徴の曲です。私的にニューオリンズなジャズ感、メンフィスのロカビリー感がするのですがどうでしょう?ルーツ的な話は難しくてよく分かりません。

歌詞は、様々なイタミをどうか抱え込まないでいつでもおいで、といった内容です。もしかしたらそんな彼は「彼女の隣人」なのかも知れません。

余談ですが、かつてどなたかが坂本龍一が”教授”なら、佐野元春はさしずめ”ドクター”だと仰っていたのをふと思い出しました。

8. どこにでもいる娘

フォーク系のポップソングです。世界観としては「本当の彼女」や「ジャスミンガール」に近いですね。

何故冒頭に”系”という言葉を使ったかと言いますと、フォークソングの一言では括れない曲だからです。

本曲は時間にしてわずか2分半程度の小品的な曲ですが、その作りはとても凝った展開の構成になっています。

元々そのつもりで曲創りをしていたのかも知れませんが、私の印象としてはホーボーキングバンドとのジャムセッションの中から生まれたのかな?と想像しています。

本曲は今回の私的レビューで最大の再発見でしたね。2分半程度と短い曲なので食い足りなさが残る分、ヘビロテしまくって聴いています。

9. 誰も気にしちゃいない

本作で最も政治的な匂いのする曲です。プロデストフォークの様相を呈していて、それは佐野さんの近年の名曲「朽ちたスズラン」にも通じます。

「朽ちたスズラン」は一語一語の威力が凄かったですが、本曲は一語の威力というより言葉数が多く、私にはその分より辛辣に聴こえました。

何故、当時1997年あたりにこの様な曲を創られたのかを考えてみますと、バブル崩壊余波の深刻化、オウム事件に神戸のアノ事件、95年には阪神・淡路大震災や国民の期待を裏切った非自民政権の終焉と、バッドニュースが次から次へと知らされた時期であったことが思い出されます。

それでいて無関心な人々、というか酷いバッドニュースだらけで人々の感性が麻痺?し始めた時期だったと言えるかも知れません。

10. ドライブ

オーソドックスなスタイルのロックンロールです。曲名は「ドライブ」ですがスピード感は抑え気味で、リラックスムードののんびりドライブですね。

サウンドはギターメインで特にスライドギターが良い感じです。歌詞は愛する人に会いに行く男のドライブ、ロードムービーと言った感じです。

で、その歌詩中の最後の方に「あの日僕はついに愛の謎が解けていたんだろう」という佐野さんのファンならピンと来るであろうフレーズが出てきます。

しかしそれって、まさかまさかの”愛の謎が解けていたことに気付かなかった問題”発生ということでしょうか?

だとすると、もう少しスピードアップして早いとこ彼女の元に駆けつけた方が良さそうな気がしますね。まあ、冗談ですが…

11.ロックンロール・ハート

ミドルテンポのフォークロックです。エンディングはインスト曲なので、佐野さんの歌という意味では実質的には本曲が最終曲だと思っています。

しかもタイトルは「ロックンロール・ハート」ということで、当時、初聴の時は過剰に期待してかなり身構えて聴いた覚えがあります。

何しろそれまでの曲が当時の私には満足出来るものではなかったので、最後はきっとやってくれるだろうと…

その感想としては期待・妄想が大きかった分、がっかり感が大きかったですね。

そして今回久々に聴いた訳ですが、真逆の感想とまでは行きませんが中々味わい深いものを感じました。

特にアレンジ・演奏面である特定の楽器が全体をリードしていない分、まさに佐野元春&ザ・ホーボーキングバンド全体のサウンドになっていて、本作のクライマックスにふさわしい曲だなと思いました。

歌詞は何があっても「ロックンロール・ハート」、この気持ちは決して変わらないという改めての決意表明と受け止めました。

あれから20年以上が経ちますが、今尚佐野さんのその気持ちに何ら変わりがないことは近作でも確認出来ているのでファンとしてはうれしい限りです。

12. ズッキーニ・ホーボーキングの夢

最終曲ですがインスト曲になります。1曲目がインスト曲でしたので、インストで始まりインストで終わるという洒落た構成です。

しかし本曲は1曲目の怪しげな雰囲気とは異なり、ユーモラスな雰囲気に溢れています。

本アルバムは全般的に地味な作品が並びましたが、聴き手を最後にニヤッとさせて終わらせてくれたのはとても良かったですね。

以上、佐野元春おすすめアルバム『THE BARN』1997【私的全曲レビュー】でした。ありがとうございました。

THE BARN