佐野元春

佐野元春おすすめアルバム『THE SUN』2004【私的全曲レビュー】

今回の記事は佐野元春さんのアルバム「THE SUN」についてです。本作は1999年の「Stones and Eggs」以来約5年というインターバルを経て発表された作品です。

長年所属していたEPIC SONYを離れ、佐野さんが立ち上げたレーベル「DaisyMusic」第一弾のオリジナルアルバムになります。


THE SUN (通常盤)

THE SUN 全体的な感想

THE SUN』2004年発表

前作から数えると本作をリリースするまで5年の歳月を要しました。その間、DaisyMusicの設立・デビュー20周年やアルバム単位での20周年・スポークンワーズ活動などを経て、満を持して全14曲入りというボリューム満点の本作がリリースされました。

当時の初聴の感想としてはかなりダンディーな大人向けのアルバムという印象で、アラサ―だった私には少々刺激が足りない気がしたのを覚えています。

今回の記事を書くにあたって改めてじっくりと聴き込みましたが、なるほどアラフィフになった現在ではちょうどいい塩梅の作品です。演奏はアルバム「フルーツ」以来の盟友であるホーボーキングバンドが担当しています。

当時の音楽誌のインタビューで佐野さんは、本作は大半がセッション形式で進められ、メンバーの個性やアイデアを尊重した的なお話をされていた記憶があります。そういった意味ではアルバム全体に佐野さん世代的な、ある種の世代感を感じました。

しかし曲調やアレンジはバラエティに富んでいるので、私の様に音楽に造詣が深くなくても楽しめるポップアルバムに仕上がっています。

歌詞に関しても、極めて具体的で日常的なものから抽象的、観念的、政治的なものまでと様々です。

よってどの曲がお気に入りになるかは人それぞれでかなり異なって来そうですが、見方を変えればそれだけ間口の広い、多くのファンが楽しめるアルバムであると言えると思います。

THE SUN 各曲感想

1. 月夜を往け

美しいストリングスアレンジメントにキャッチーなメロディと申し分のない曲です。歌詞からは明日への決意を感じますし、「月夜を往け」というタイトルも素敵ですね。1曲目にふさわしい曲です。

2. 最後の1ピース

ダンサブルな洒落たソウルナンバーです。イントロから終始サックスがフューチャーされているのも本曲の心地良さに大きな役割を果たしていると思います。

当時、ここまでサックスがフューチャーされている楽曲にお目に掛かるのは久しぶりでしたので結構興奮した覚えがあります。

歌詞は抽象的でよく分からないですが、「最後の1ピース」あともう一つ大事な何かが足りない、それを見つけたいという、「99 BLUES」にも通じるものを勝手に見出してしまいました。

しかしよくよく歌詞カードを読むと単にジグソーパズルを楽しんでいる夜の風景にも思えてきます。

3. 恵みの雨

サイケ感のあるブルージーな曲です。曲調としてはセルフカバーアルバムの「月と専制君主」や「自由の岸辺」といったホーボーキングバンドとの一連の作品にも通じる大人向けの曲といった趣きです。

ホーボーキングバンドとはアルバム「フルーツ」や「THE BARN」にて共演済みですが、セルフカバーアルバムやビルボードライブなど、現在のホーボーキングバンドの立ち位置を決定づけた、もしかしたらその原点の曲なのかも知れません。

歌詞については全体的にはそれほどピンと来ませんでしたが、「この愛すべき人生」「我が道を行け」と佐野さんらしいワンフレーズのパワーは感じました。

4. 希望

思わず“ザ”を付けたくなる、お手本の様なフォークソングです。明快なメロディーにシンプルなアレンジ、そして極めて現実的で具体的な歌詞。

初聴の時は歌詞があまりにも具体的で、ある種佐野さんらしくなかったのでとても驚いた覚えがあります。

「墓参りの準備で街の市場に立ち寄った」といった等々。どうでもいい事ですが佐野さんは市場に立ち寄るのですね?ちなみに私が立ち寄るのは花屋さんです。

また、「夢の続きから始めてみてもいい そうさ 正しい理由の向こうには自由」の一節にはしびれました。

夢ってたとえ破れたとしても、その続きから再び始めるのも悪くないという発想は意外と聞いたことが無かったので。

「夢をあきらめないで」というフレーズなら耳にタコが出来るほどあちこちで聞かされてきましたが…

ちなみに”夢”で言えば、一青窈さんの「ハナミズキ」の一節「~夢がちゃんと終わりますように~」というのもほかでは聞いたことがなく、かなり好きなフレーズです。

5. 地図のない旅

こちらはフォークと言ってもフォークロックですね。アコギをかきむしる様なイントロが格好良いです。メロディも分かりやすく、ボーカルも本作の中で一番パワフルに思えます。

歌詞は現実を悲観しながらも、強い気持ちを持ってさすらい続けよう、地図のない旅を続けようということでしょうか?

あと詳細は忘れましたが、当時公式HPのMWSで「地図のない旅」というレコーディングレポート?を投稿したりしていたので、この曲にはかなり注目していました。

期待にたがわぬ曲だとは思いますが、私的にはパンチのある曲だけにもう少しゴリゴリ感のあるアレンジにして欲しかったですね。

アルバム「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」に収録されている「愛のシステム」に通じる物足りなさ、時間も3分程度とちょっとコンパクトな感じがします。

「愛のシステム」はライブver.で大胆な変化を遂げましたが、本曲はライブでほとんど披露されないせいか、リアレンジver.を聴けていないというのはポテンシャルの高い曲だけに少々残念ですね。

6. 観覧車の夜

高橋ゲタ夫氏をゲストに迎えてアレンジもお任せした曲です。曲調としてはラテン感の中にジャジーさもあってとてもダンディーな印象を受けました。

パーカッションはもとよりピアノやホーンもフューチャーされていますが派手さはなく、緻密で不思議な雰囲気すら感じさせる曲です。

歌詞は佐野さんらしく現実を憂いつつも前向きにといった内容です。

7. 恋しいわが家

ミドルテンポのロックナンバーです。アレンジの緻密さは本作の中でも際立っています。

本作の多くのアレンジは、ホーボーキングバンドとのジャムセッションの中から生まれたとの話を音楽誌で佐野さんが語っていたのを覚えています。たしか本曲と1.と8.は佐野さんが隅済みまでコントロールしたとの話だったかと思います。

それがどうした?と言われればそれまでですが、私は音数の多い、厚みのあるサウンドが好きだということですね、はい。歌詩は前向きに行こう系の詩です。

8. 君の魂 大事な魂

1.「月夜を往け」と共に”奇跡のポップ”だったか、そんな感じのキャッチコピーが付いたシングル曲です。

私が初めてこの曲を聞いたのは2002年頃のテレビの歌番組でした。その時のタイトルは「SAIL ON」だったと記憶しています。

奇しくもその当時の佐野さんは2020年現在ではすっかり定着した”短髪”姿で、曲調とも相まって爽快感に溢れていた記憶があります。(近年は、短髪は短髪でもデザイン短髪といった格好良さで当時とは異なりますが)

曲調はミドルテンポのポップソングでジョン・レノンぽさ、多数のカバーが存在する名曲「Sea of love」、私の場合はアル・パチーノ主演の同名の映画「SEA OF LOVE」の主題歌のバージョンを思い出しました。グッドソングです。

歌詞は前向きですが「君の魂 大事な魂 ならず者たちに気付かれちゃいけない」の一節には、かなりハッとさせられました。

そういった意味では曲のタイトルが「君の魂 大事な魂」となったのは納得出来るのですが、単に曲のタイトルとして見るとイマイチだなと感じてしまうのは私だけでしょうか?なんとなく惜しい気がします。

9. 明日を生きよう

やわらかさと力強さの二つを兼ね備えたポップソングです。正直この記事を書くにあたって曲名自体・存在自体全く記憶にありませんでした。不徳の致すところです。

「明日を生きよう」?そんな曲あったっけ?覚えがないな…そしていざ改めて聴いてみると、あーあったな、そう言えば。てな感じでした。

で、その感想ですがこれが中々の出来です。雰囲気的にはアルバム「或る秋の日」に収録されていても違和感のない曲だと思いますね。

やわらかなメロディにフレンドリーな歌詞から始まり、サビ?では力強さも感じさせてくれます。この記事を書くことで再発見出来てとても良かったです。

10. レイナ

非常に具体的な描写が人気のラブソングです。この曲もアルバム「或る秋の日」と併せて聴きたい曲ですね。

「子供達は寝かしつけておいたよ、今まで君はずっとひとりで闘ってきたんだろう」などと全編に渡って優しさに溢れています。

その優しさはブルース・スプリングスティーンの名曲「I Wanna Marry You」にも通じる、聴き手を穏やかな気持ちにさせてくれるグッドソングです。

11. 遠い声

本作の隠れ?代表曲と言っても良いくらいの名曲です。サウンドとしては全編アコースティックに貫かれています。

曲調としてはフォークロックの部類に入るかと思いますが、アレンジがとても洗練されていて都会的で良質なAORといった趣きです。

特に間奏のソプラノサックスのソロ、そして満を持して登場するアコギの”ジャッジャッジャーン”は何度聴いても鳥肌ものです。

歌詞は、現実は厳しいが寄り添っているから心配しないでといった感じでしょうか?若干抽象的な感じはします。

余談ですが、その歌詞に「君の元へ1cm 2cm 3cm少しづつ近づいていってるよ」いうフレーズがありますね。

そのフレーズについて、近づくのに「1cm 2cm 3cm」という表現はおかしいのではないか? 「1cm 2cm 3cm」じゃむしろ遠ざかってるのでは?

近づくのであれば「3cm 2cm 1cm」という表現が妥当では?といった、とりとめのない議論が当時ネット上で交わされていたことを思い出しました。

結論的には、それは観測点によって異なるので必ずしも「1cm 2cm 3cm」という表現はおかしくないということで落ち着いた様です。

たしかに「3cm 2cm 1cm」だとリアルな接近になってしまい、どんだけ近づきたいんだよ? ちけーよ! 最終的にはぶつかっちゃうじゃんか!って話になりますからね。

近づくというのは基本、気持ちの話だから気持ち…ま、どうでもいい話でしたね。失礼しました。

12. DIG

オーソドックなロックで疑似ライブなオープニングになっています。こういった試みは佐野さんの作品では初めてだと思います。

当然のことながらオープニングの歓声だけでなく、メンバーのコーラスも含めてとてもライブ感のある楽曲に仕上がっています。

ですので歌詞に耳を澄ますよりも素直にバンドのグルーブに身を委ねる方が吉だと思いますね。

13. 国のための準備

シンプルでストレートなロックロールです。タイトルはニールヤングの「国のために用意はいいか?」を想起させますが、こういった示唆に富んだ言葉は私好みです。

「人は時に行き着く先のことなんて、何も考えずに歩きだしてしまう、そして道に迷い帰れなくなって…」の部分は、アルバムZOOEYの「優しい闇」の一節「ひとはあまりに傲慢だ、帰り道をなくしているのも知らずに」を思い出しました。

そういえば「優しい闇」は集団的自衛権の行使を一部条件付きで可能とした安保法改正にインスパイアされたのでは?との噂さされたりもしました。

話がそれましたが、本曲についてはタイトルがタイトルだけに政治的な曲であることは間違いないところだと思います。

得てしてこういったタイプの曲は、ほかのアーチストの場合、暗い曲か乱暴な感じの曲になりがちですが、佐野さんは佐野さんらしくシャープなロックンロールとして表現していますね。

こういった手法は、1988年に同様に政治色の濃い原発問題をテーマにして発表したシングル「警告どおり 計画どおり」でも見られました。

また話が逸れてしまいましたが、本曲で少し残念なのは、とにかく「国のための準備はもうできてるかい? 」のインパクトが強すぎて他のフレーズが私にはあまり響いて来ませんでした。

まあでもこの曲は「国のための準備はもうできてるかい? 」の一言で全てを言い表している様な気もしますが。

14. 太陽

アルバムのラストを飾るスケールの大きさが感じられるスローソングです。世界観は異なりますが曲調としてはアルバム「BLOOD MOON」の「東京スカイライン」に近いものを感じました。

メロディーが秀逸なので普通に最後まで聴けますが、歌詞はちょっと難解な印象です。

「目の前のリアリティーは冷たくなったレモンティー」、うーん…よく分からないです。こういう語呂合わせ的なものは、正直好みじゃありませんね。

ただ「色あせた惑星のささやきはラブ・ミー・テンダー」は何だかよく分かりませんが素敵です。

「God 愛しいあの人が無事にたどり着けるように」とあるように、この曲は亡くした人、天に召された人への祈りの歌かな?と想像しています。

そう考えれば歌詞が観念的でスピリチュアルなのも腑に落ちます。

本アルバムのタイトルが「THE SUN」なので本曲はタイトルチューンだと思いますが、アルバムジャケットの様な太陽の眩しさはこの曲からは感じられません。

地球の地上から見た太陽と宇宙空間に存在する太陽、同じ太陽でも…うーん難しいですね。にしても最終曲にふさわしい壮大な名曲だと思います。

以上、佐野元春おすすめアルバム『THE SUN』2004【私的全曲レビュー】でした。ありがとうございました。

THE SUN (通常盤)